たぶんしないと思う
しないんじゃないかな
ま、ちょっと覚悟はしておけ
さだまさしが歌う「関白宣言」(詞・さだまさし)の有名なフレーズだ。銀行の不良債権の自己査定でも、この歌そっくりの分類が行われている。
不良債権とは、「返済が滞っている融資」のことである。融資がきちんと返済されるかどうかは、銀行経営の根幹にかかわる重要な問題である。しかし、融資が滞っているといっても、全く返済の可能性のないものから、ささいな理由で一時的に返済が遅れたといった、程度の軽いものもある。そこで、銀行は融資先の状況を詳しく調べ、返済の滞りの「度合い」に応じて分類して、対応を検討する。これが「不良債権の自己査定」である。
不良債権の査定には、銀行法に基づくもの、金融再生法に基づくもの、そして、金融庁が作成した「金融検査マニュアル」によるものの三つがある。この中で最も広く使われ、注目されているのが「金融検査マニュアル」による不良債権の自己査定だ。
「金融検査マニュアル」の自己査定には、大きく分けて四つのカテゴリーがある。①正常先、②要注意先、③破綻懸念先、④破綻先・実質破綻先、の四つだ。
これを「関白宣言」の歌詞に合わせると、
①貸したお金は返る
②たぶん返ると思う
③返るんじゃないかな
④返らないと、覚悟をしておけ、となる。
正常先はその名の通り、返済に滞りはなく、不安も全くない融資先で、不良債権ではない。「要注意先」から下のカテゴリーが不良債権となる。
要注意先は、「たぶん返ると思う」という程度の、比較的軽い不良債権である。元本や利息の支払いが滞っているものの、それほど危機的な状態ではなく、返済の一時猶予や、返済期間の延長などの条件緩和を行えば、最終的に融資は完済されると予想されるものなのである。ここにはさらに、3カ月以上の延滞や、すでに融資条件の緩和が行われているなど、より深刻なものについて、「要管理先」というカテゴリーを追加して区別する場合もある。
破綻懸念先になると、「返るんじゃないかな」とかなり自信がない状態だ。融資先の状況は厳しく、返済が不可能になる恐れが高いと予想されるのだ。金融検査マニュアルでは、「現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画などの進捗状況が芳しくない。今後、経営破綻に陥る可能性が大きい」と定義されていて、倒産の一歩手前まで追い込まれている融資先と言えよう。
そして、最後のカテゴリーが破綻先・実質破綻先だ。融資の返済が不可能となり、「焦げ付き」となることがほぼ確定した融資先がここに分類される。「返らないと、覚悟をしておけ」というのが、「破綻・実質破綻先」の融資先なのである。
融資を受けている企業にとって、この四つのカテゴリーのどこに分類されるかは、極めて重要な意味を持つ。「破綻懸念先」に分類されてしまうと、原則として新規の融資は受けられない。ところが、「破綻懸念先」に分類されるような企業こそ、追加の融資を必要としているのだ。したがって、「破綻懸念先」に分類され、新規の融資を止められた企業は、銀行に見放されたことになり、倒産への道を走り始めることになる。1998年の日本長期信用銀行の破綻など、大銀行の経営破綻が相次ぎ、不良債権問題が一層深刻化して行く過程では、「あの会社が破綻懸念先に落ちたらしい。もうダメだな…」といったうわさが駆け巡ったこともあった。銀行の自己査定の結果は、企業の命運を左右する極めて重要なものだったのだ。
その後、銀行の不良債権問題はヤマ場を越え、自己査定が注目されることは少なくなった。しかし、銀行の自己査定でどのカテゴリーに分類されるかは、融資先企業にとって重大な問題であり、その命運を左右することに変わりはない。
「ま、ちょっと覚悟はしておけ」と、銀行の査定で「破綻懸念先」に分類されることは、企業への「死刑宣告」になる場合もあるのだ。