飲み会で、知人が愚痴っている。親類に100万円を貸したものの、期日が来ても返済されない。親類が保有する自動車を担保にしているが、「返せないなら車をよこせ!」とも言い出せずにいるという。「誰か代わりに取り立ててくれないかな…」と知人はため息をつく。
「それなら、代わってあげましょう」というのが、「不良債権の買い取り」だ。不良債権とは、返済が滞っている融資のこと。貸したお金を返してもらえずに困っている個人や企業、そして金融機関などから借用証書を買い取り、代わりにお金を回収するのが、不良債権の買い取りなのだ。
不良債権を抱えている側にとってみれば「ありがたいこと」と思われがちだが、問題は買い取り価格だ。親類に100万円を融資した知人の例で考えてみよう。借用証書を買い取ったものの、全額の100万円はおろか、1円も回収できない場合もある。
100万円の借用証書の、本当の価値はいくらなのか? 不良債権を買い取る側は、まず、親類の返済能力などを調査する。また、担保の価値も重要だ。100万円の借金の担保になっている車が、30万円で売れるのか、5万円でしか売れないのかによって、不良債権の買い取り価格は大きく左右されるのだ。こうした買い取り価格を決める作業が「不良債権の査定」であり、100万円の借用証書の買い取り価格が30万円、10万円、あるいは1万円になってしまうことだってあるのだ。
不良債権の所有者にとって、ただの紙切れになってしまうくらいなら、1万円でも現金に換えた方がましだという考えもあるだろう。しかし、それは100万円で回収できる可能性を完全に捨て去り、損失が確定すること。したがって、買い取り額があまりに低いと、不良債権を売らず、回収作業を続行する場合も出てくる。
買い取る側も、高く買いすぎると損失が出る恐れがあるが、あまりに安い価格を提示すると売ってもらえなくなる。不良債権の売買が成立するかどうかは、売り手と買い手の交渉次第なのだ。
不良債権の買い取りは、バブル崩壊後の日本で大規模に行われた。売り手は大量の不良債権を抱えて身動きが取れなくなった銀行、買い手は外資を中心とした金融機関だったが、政府も大量の不良債権を買い取った。これが「公的資金による不良債権の買い取り」だ。政府は1999年に整理回収機構を設立、銀行から不良債権を買い取ることで金融機関に資金を提供し、財務基盤の強化を後押しした。これが金融機関への「公的資金の注入」とあわせて、バブル崩壊後の金融危機を解消する中心的な政策となったのだ。
公的資金による不良債権の買い取りは、2008年、金融危機にさらされているアメリカを始めとした世界各国で行われようとしている。しかし、買い取ろうとしている不良債権の中には、サブプライムローンを組み込んだ複雑な証券も多く、査定が極めて難しい。「そんなに安いなら自分で回収する。もっと高く買って欲しい」という金融機関と、税金を使う以上なるべく安く購入したい政府側との間の交渉は、査定が難しいことも手伝って、困難を極めているのだ。
返済が滞っている借用書を抱えて困っている金融機関に、「買い取りますよ!」と持ちかける政府。それに素直に応じられない金融機関。金融危機を解消する重要な手段である、公的資金による不良債権の買い取りだが、その実効性には大きな疑問が投げかけられているのである。