金融システムにおける「コミュニティーバス」の役割を担っているのが「信用金庫」と「信用組合」だ。
金融機関は、お金を運ぶ交通機関。当面使う当てのないお金を「預金」などの形で受け入れ、これを「融資」や「投資」の形で、お金を必要としている人の元に運搬している。
JRや大手私鉄、路線バスやタクシーなど、交通機関には様々な形態があるように、金融機関にもいくつかの種類がある。全国的な店舗展開をしているメガバンクはJR、地方銀行や第2地方銀行は大手私鉄やローカル線と考えられる。
しかし、これらの金融機関ですべての地域をカバーすることは困難で、鉄道も路線バスもタクシーもない「金融空白地帯」が生じる恐れがある。この空白を埋めるために、住民たちが独力で設立した金融システムのコミュニティーバスが、信用金庫と信用組合なのだ。
預金や融資、手形決済に送金など、信用金庫と信用組合の仕事は、基本的に銀行と同じだが、大きく異なるのは、その成り立ちと目的、そして業務地域だ。
銀行などの金融機関は、株式を発行し、国内のみならず海外からも広く資金を集め、事業を展開している。これに対して、信用金庫と信用組合は、地元の人から集めたお金(出資金)が元手となっている。出資者は、信用金庫では「会員」、信用組合では「組合員」と呼ばれるが、その地域に住んでいる人や企業に限定され、地域外の人の出資は原則として受け入れられない。
顧客も地域限定だ。預金については地域外でも受け入れている。しかし、融資は出資をしている組合員や会員、つまりその地域に限定されている。
また、融資の対象が企業の場合、従業員数は300人以下、または資本金が信用金庫では9億円以下、信用組合が3億円以下という規模の上限がある。大手の金融機関には相手をしてもらえない、中小・零細企業に限定されているのだ。したがって、融資を受けていた企業がその後成長し、規模の上限を超えた場合には、「卒業生」と呼ばれ、融資を受けることができなくなるのである。
経営方針も銀行など一般の金融機関と根本的に異なっている。銀行などは株主の利益を追求する「営利企業」だ。これに対して、信用金庫も信用組合も「非営利企業」であり、加入している組合員らの相互扶助を目的としている。信用金庫と信用組合は、自家用車を持てないお年寄りなどの足を確保するために、地域限定で運行されるコミュニティーバスであり、利益を上げるためのものではないのである。
日本初の信用金庫である「掛川信用金庫」の前身、「勧業資金積立組合」は、二宮尊徳の弟子であった岡田良一郎が明治12年(1879年)に創業したもの。その運営方針は相互扶助を訴えた二宮尊徳の「報徳思想」にあったという。信用金庫の性質を物語るエピソードだ。
コミュニティーバスは、小さなワゴン車だったが、ドライバーが話しかけてくるなど暖かい雰囲気だった。巨大化とハイテク化が進む金融界だが、地域に密着したきめ細かな金融サービスを展開する信用金庫と信用組合は、地方経済になくてはならない存在なのである。