中央銀行による「長期国債の買い取り」は、この質屋の買い取りに相当する金融緩和策の一つだ。中央銀行は、民間銀行により多くの資金を供給、これによって景気を刺激する金融緩和策を実施する。
中央銀行が民間銀行に資金を供給する場合、原則として担保を取る。企業が発行した手形やCP(コマーシャルペーパー)など、民間銀行が保有している有価証券を「質草」として預かり、数日から数カ月と期限を定めて資金を供給しているのだ。これが「買いオペレーション」(買いオペ)で、中央銀行が多くの資金を供給して金融緩和を行う際の重要な手段となっている。
買いオペレーションでは、国債も使われている。こちらの場合も、期間が1年以内の短期国債や、期限が来れば国債を返却して資金を回収する「現先」と呼ばれる取引をすることで、資金を供給する期間を限定している。
資金回収の期限を定めるのは、紙幣の過剰発行を避けるためだ。中央銀行の資金供給は、新たに紙幣を発行すること。安易に行えば紙幣が過剰発行され、紙幣の価値が下がるインフレになる。そこで、資金供給に期限を設けて頻繁に回収、緻密に調整することでインフレにならないようにしているのだ。
中央銀行の資金供給の中で、大きく性格の異なるのが長期国債の買い取りだ。中央銀行が長期国債を買い取ると、償還期限までの10年、20年という長期間、資金が回収されず、追加発行された紙幣が流通し続けることになる。これによって、企業の借入金利や住宅ローンなどに直結する長期金利が低下するなど、金融緩和効果はより大きくなる。しかし、インフレが発生する危険性も高まり、紙幣の過剰発行に伴う外国為替相場の下落という副作用を引き起こすことがあるのだ。
2009年3月18日、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)は、最大3000億ドルの長期国債の買い取りを実施すると発表した。深刻化する金融危機と景気悪化を食い止めるための金融緩和策の一環だった。FRBの発表を受けて、景気回復の期待が高まったことから株式市場は急上昇、長期金利も大きく低下したが、同時に外国為替市場では、将来のインフレを懸念してドルが売られる展開となったのだ。
しかし、長期国債の買い取りが、即座に景気回復につながるわけではない。大量に資金が供給されても、それを融資に回すかどうかは銀行の判断であり、供給された資金がすべて利用され、景気を押し上げるわけではないのだ。日本やイギリスでも、中央銀行が長期国債の買い取りを実施しているが、目立った効果は現れていないのが実情なのである。
質屋である中央銀行が、民間銀行から国債という質草を買い取り、資金を供給する金融緩和策。その中にあって、「長期国債の買い取り」は、質草を買い取ったまま、長期間資金を供給し続ける強力なものだが、大きな副作用もある。それにもかかわらず、各国の中央銀行が軒並み実施に踏み切っていることは、金融危機に伴う景気悪化がいかに深刻であるかを物語っているのである。