我々の生活に、銀行口座はなくてはならない存在だ。企業も同様に銀行に口座を持ち、様々な資金のやりとりを行う。手形や小切手の決済資金が不足して「不渡り」を出す事態となれば、倒産に追い込まれることにもなる。
個人にとっても、企業にとってもなくてはならないものが銀行口座であり、経済活動の生命線となっている。
こうした個人や企業の口座を大量に管理しているのが銀行だが、その銀行自身も「銀行口座」を持っている。「日銀当座預金」である。都市銀行や地方銀行の他、外国銀行に証券会社、短資会社などが、それぞれ一つずつ日本銀行に当座預金を保有していて、2007年10月末現在、578の口座が開設されている。
日銀当座預金の根本的な機能は、次の三つ。個人や企業の銀行口座と同じで、当座預金であるために金利は付かない。
一つ目の機能は「決済機能」だ。
個人や企業と同様に、銀行でも、三菱東京UFJ銀行から三井住友銀行へ、といった資金の受け渡しが発生する。こうした決済は「日銀ネット」というシステムで行われるが、その際に使われるのが日銀当座預金なのだ。
二つ目の機能は「支払い準備機能」だ。
銀行は多くの企業や個人から預金を預かる一方で、その求めに応じて、いつでも、どんなに巨額であっても、現金で払い戻しをする必要がある。銀行はある程度の現金を金庫に保有してはいるが、金額によっては足りないこともある。この場合には、日銀当座預金を下ろして、日銀から現金を受け取り、支払いに充てることになる。個人や企業が銀行の窓口やATMで、現金を引き出したり、預け入れをしたりするのと同じことが、銀行と日銀の間で行われていて、それに使われるのが日銀当座預金なのである。
もし、残高が不足し、預金の引き出しに応じられなければ、「取り付け」が発生し、銀行は破綻してしまう。ATMでお金を下ろそうとしたら「残高不足です」と、カードが戻って来てしまうような事態は、個人なら許されても、銀行では絶対に許されないことなのだ。
三つ目の機能は「準備預金機能」と、これを利用した金融政策だ。
すでに説明したように、銀行はいつでも預金の引き出し要求に応じなければならない。そこで日銀は、日銀当座預金に一定の残高を保持することを義務づけている。その残高が、所要準備額、あるいは法定準備預金額と呼ばれるものだ。銀行にとって、「所用準備」を守ることは絶対条件であり、出来ない場合は破綻したと見なされてしまうことから、必死に残高を確保しようとする。所要準備額を決めるのが預金準備率で、これが金融政策の重要な手段になっている。
預金準備率を高くすれば、銀行はより多くのお金を日銀当座預金に預けざるを得ず、その分だけ融資などに回すお金が減り、経済に出回る貨幣供給量も減少、これによって金利が上昇することになる。反対に預金準備率が引き下げられれば、より多くのお金が出回り、金利が低下する。つまり、預金準備率を動かしてお金の供給量をコントロールすることで、金利を上下させるという金融政策の手段の一つとなっているのだ。
「銀行の銀行口座」である「日銀当座預金」は、金融機関としての業務を進めて行く上での生命線だ。それは同時に、金融政策が行われる重要な現場ともなっているのである。