ウェールズ・ファーゴ銀行誕生の歴史は、金融業の本質が「お金の輸送機関」であることを示している。金融とは「お金」を「融通」すること。つまり、お金を持っている人から、それを必要としている人の所にスムーズに運び、約束の時が来たら、確実に戻してもらうことにほかならない。お金という乗客を乗せた列車を運行し、利息や手数料という「運賃」を得ているのが金融機関であり、張り巡らされた線路が金融システムと考えられるのだ。
日本の鉄道網は、JR、私鉄、地下鉄などが絡み合って形作られているが、金融システムはさらに複雑だ。銀行だけでも、都市銀行や地方銀行、信用金庫に信用組合など多種多彩、これらに加えて証券会社や生命保険会社、さらには郵便貯金や政策投資銀行といった、かつての「国鉄」のように政府が運営するものもある。
これらの金融機関は、相互に巨額の資金のやり取りを行って密接につながっている上に、海外の金融システムにも接続されている。日本からアフリカの小さな町の銀行にも、素早く簡単にお金を送ることができるし、ニューヨークや上海、ブラジルなど、世界中の株式を購入できるのも、世界各国の金融システムが相互に接続されているからこそ可能なこと。世界中の金融機関が張り巡らせた線路の上を、膨大な数の列車が「相互乗り入れ」をしながら、24時間休みなく走り続けているのが、金融システムなのである。
世界中に張り巡らされた金融システムだが、小さなトラブルで全体が機能不全に陥る危険性を持っている。
いま、日本の小さな銀行が破たんし、資金決済ができなくなったとしよう。すると、その銀行から資金を受け取る予定の銀行が、経営が健全であっても、連鎖的に決済不能になる恐れが出てくる。相互乗り入れをしている線路の上で、ある鉄道会社の列車がトラブルを起こして立ち往生、これによって、この線路を走っている他の列車も数珠つなぎになってしまうというわけなのだ。しかも、金融システムの場合には、海外とも直接つながっている。したがって、日本で起きた小さな金融破たんが、アメリカやヨーロッパなど、世界全体の金融システムのマヒを引き起こしかねないのである。
こうしたことから、政府や中央銀行は、金融システムの安定に万全の態勢で臨む。バブル崩壊に伴う金融不安では、日本政府は巨額の公的資金を投入し、金融機関を救済した。「民間企業を、税金で救うのは納得できない!」と激しい非難が起こったが、政府の姿勢が変わることはなかった。どんなに小さな金融機関の破たんであっても、それが金融システム全体に波及し、お金を乗せる列車が遅れたり、運休したりする事態に発展しかねないのだ。
「ある日突然、列車が止まったら、困るでしょう。だから、税金を投入して、運行を続けさせるのです。これに失敗したら、日本のみならず、他の国にも迷惑が及びかねないのです」というのが、金融機関を救い、金融システムの維持を図った政府の考え方だったのだ。
金融システムは、「経済の血液」であるお金を運ぶ巨大な鉄道網だ。しかし、その実態は極めて壊れやすく、一度問題が起これば、システム全体に波及する危険性を持っている。これを維持するためには、お金という乗客を、安全、確実に運搬し、決して事故を起こさないという金融機関の厳格な経営姿勢と、厳しい金融当局の監視が必要不可欠なのである。