与信とは金融機関が企業や個人にお金を融資すること。期限が来たら元金と利息をきちんと返済してくれるという「信用」を与えられる相手にのみ融資するという意味から、与信という言葉が使われている。
融資を求める理由は様々だ。「新規事業に挑戦する」「事業拡大のための企業買収を行う」といった前向きなものから、「月末の支払資金が足りない」といったその場しのぎのものまである。しかし、どんな融資であっても、それが有効に活用されれば返済が実行され、金融機関は利益を上げることができるし、融資先にも感謝される。才能がありながらも苦しんでいるアーティストをサポートし、ブレイクできたら投じたお金を回収する。これが与信なのである。
与信を与えるかどうかの判断基準が「返済能力(capacity)」、「返済資質(character)」、「返済担保(capital)」の「3C」だ。
返済能力も高く、高い将来性を持つなど返済資質も良好、さらに不動産などの資産を保有し担保も十分と「3C」すべてが整っていれば、簡単に与信を与えることができるが、こうしたケースばかりではない。将来性はあるけれど担保はゼロ、資金繰りも自転車操業など、リスクが高い場合も多い。
ここで与信を行う金融機関の真価が問われる。「3C」を満たしていなくても、与信を与えることで融資先が大きな飛躍を果たせれば、利益を得ることができる。第二次世界大戦後の復興期、大半の企業は「3C」を満たしていなかったが、日本の銀行は積極的に与信を行った。これが企業の成長をサポートし、高度経済成長を可能にした。無名のアーティストの成功を信じて与信を与えたことで、「ソニー」や「パナソニック」といった世界的なスターが誕生したのだ。
その一方で、与信のリスクは大きく、金融機関の経営を直撃することもある。バブル経済がピークに達していた1980年代末、「北浜の天才相場師」と呼ばれていた「料亭の女将」に、複数の金融機関が延べ2兆7000億円を超える与信を行った。しかし、バブル崩壊で女将は破産、巨額の焦げ付きが発生し経営破たんする金融機関が出るに至る。女将は91年8月に逮捕、関わった3人の金融マンも逮捕されるなど大事件になった。居酒屋で歌っていた女将を「美空ひばりの再来!」と思い込んで、巨額のプロモーション費用を投じたようなものだった。
与信を与えるかどうかは金融機関経営の生命線だが、与信を与えた後の管理も重要だ。金融機関は融資先の状況をチェック、必要に応じてアドバイスを行う。これが「与信管理(credit management)」で、融資先企業に人材を送り込み、経営改善を直接行うこともある。発掘したアーティストを教育し、ブレイクできるようにサポートするというわけだ。
路上で歌う無名のアーティストをメジャーにするには、音楽プロデューサーのサポートが不可欠だ。ダイヤの原石のような企業を探し出し、与信を与えてブレイクさせることが金融機関の使命であり、醍醐味でもあるのである。