銀行は預金者から集めたお金を、企業などの融資先に働きに出している「人材派遣会社」のような存在で、金利は派遣先から支払われる派遣料金に相当する。「最優遇貸出金利」とも呼ばれる長期プライムレートは、優良企業に対して提示される長期の融資金利のこと。優良企業は倒産する危険性が小さいことから、最も低い金利が設定されている。長期プライムレートは、銀行が信用力の高い派遣先と長期の雇用交渉をする際の条件提示であり、「安い派遣料金で結構ですので、ぜひ採用してください!」と働きかけをしているわけだ。
長期プライムレートの算出基準となっているのが、長期国債の金利だ。政府が支払い保証をする国債は、「公務員」のような手堅いお金の派遣先で、優良企業向けの長期プライムレートが参考とするにふさわしいと考えられている。
国債の中心となっているのは償還期間10年のもので、長期間におけるお金の雇用情勢を示すことから、長期プライムレートの基準になっているわけだ。
2月10日に長期プライムレートが引き下げられたのは、前日に長期国債の金利が急低下してマイナスになったためだ。この異常な事態を引き起こした理由の一つが、株式市場の急落だった。お金を株式市場で働かせることに不安感が広がり、安全な働き場所を求めて国債への転職が殺到したのだ。
日銀のマイナス金利政策も原因の一つと考えられる。民間銀行が日銀に保有している日銀当座預金には、13年4月に始まった量的・質的金融緩和策に伴って、莫大なお金が振り込まれてきた。日銀はこのお金が、企業向けの融資などに派遣されることを期待していたのだが、現実には適当な就職先が見つからずに、日銀当座預金にとどまったまま。業を煮やした日銀は、「人材を働きに出さないなら罰金だ!」とばかりに、マイナス金利を課した。慌てた民間銀行は、とりあえず日銀当座預金からお金を引き出したものの、適当な融資先が見つからないため、安全な国債に避難させることにしたのだった。
株価の急落と日銀のマイナス金利政策によって、行き場を失ったお金たちが、一斉に国債に就職しようとした結果、派遣料金(金利)が極端に低下し、ついには「お金を払ってもいいので公務員に採用してください!」という異常なマイナス金利を引き起こしてしまうことになった。
国債金利の低下に伴って、長期プライムレートも引き下げられたが、融資が増える気配は見られない。「派遣料金を下げました。ぜひ、採用してください!」という銀行のアピールにもかかわらず、お金の就職難は解消されそうにないのである。