ところが、こうした事業こそ「儲かる!」と、積極的に投資する動きが広がりつつある。「ソーシャルインパクト」(社会的貢献投資)、教育や福祉などの社会的(ソーシャル)課題を解決するための事業に資金を投入し、利益を上げようとする投資行動の総称だ。
銀行融資や投資は、投入した資金が利益を生み、最終的には安全に回収することを目指していて、株式や債券、不動産から原油などの商品に至るまで収益源となる投資先を懸命に探している。これに対して、ホームレス対策などのソーシャルな事業への資金拠出は、投資ではなく慈善事業や寄付であり、利益をもたらすものでも、利益を求めるものでもないとされてきた。しかし、事業のリスクとリターンを冷静に分析した上で、資金を投入していけば、従来型の投資と同様に、あるいはそれ以上に安定した利益が得られることが分かってきた。
ソーシャルインパクトの先進国はアメリカだ。貧困地域で倒産した工場を買い取り、ホームレスの住居や再教育施設として再生する事業に投資が行われたケースがある。住む場所を提供されたホームレスたちは、新たな技能を身に付けて働き始め、やがて家賃が出資者に入るようになる。治安が改善されて雇用の場も拡大、買い取った建物にはお店もオープンして、それらの利益も出資者に支払われるようになった結果、通常の投資を上回る利益を出すといった具合だ。事業のリスク管理に、高度な金融工学が使われているのが特徴で、大手の金融機関がNPOと手を組んで対象となる事業を選び出し、機関投資家や富裕層から資金を呼び込むことに成功しているという。
世界的なカネ余りが続く中、新たな投資対象として注目されるソーシャルインパクトだが、サブプライムローンという「悪しき前例」がある。サブプライムローンは、最先端の金融工学を駆使することで、見向きもされなかった低所得者層向けの住宅ローンから、大きな利益を引き出すことに成功した。慈善事業を採算に乗せたとして、社会的な意義も高かったのだが、次第にマネーゲームの対象となり暴走、2008年に「リーマン・ショック」を引き起こして、世界経済を大混乱に陥れることになった。ソーシャルインパクトにも、同様の危険性が潜んでいると指摘されているのだ。
慈善事業を営利事業に変えるという、発想の転換から生まれたソーシャルインパクト。日本でもこうした動きが広がれば、知人の事業も資金が得られるかもしれない。カネ余りと経済の低迷が続く日本。ソーシャルインパクトは、余っている資金を活用し、眠っている経済資源を活性化する手段になると期待されている。