第4回目のゲストは、2022年「ブラックボックス」で第166回芥川賞を受賞した砂川文次さん。元自衛官という経歴を持ち、硬質な文体で、リアルな戦闘シーンが特徴の戦争小説などを描く新鋭は「純文学」をどう定義しているのか? 互いに初対面で緊張感漂うなか、自身の経験は小説にどこまで反映できるのか? など……熱い議論が展開される!
常に〝読み書き〟してないと不安?
鴻池 今日は緊張しています。いままで初対面の方をゲストに迎えたことなかったので。どうぞお手柔らかにお願いしますね。
砂川 いや、その言葉そっくりそのままお返しします(笑)。なにせ、私は小説家の方との対談が初めてですので。
鴻池 よりによって初めてが「鴻池かよ」ってね(笑)。
砂川 いえいえ、いままで軍事評論家、戦場カメラマン、防衛研究所の方々としか対談の機会がなかったんです(笑)。
鴻池 そっちのほうがすごいですけど。元自衛官という経歴があって、小説家だからわかりやすく話してくれると思われてのオファーなんでしょうかね。『航空ファン』というホビー好きなら誰でも知っている雑誌にもインタビューが載ってましたね。
砂川 なんか、日本で一番発行部数が多い航空雑誌らしいですね。
鴻池 ええ、有名ですよ。読んだことはなかったんですか。
砂川 そういうのに、あんまり興味がないんですよ。
鴻池 砂川さんは、映画『シン・ゴジラ』にも出てくる、「AH-1Sコブラ」という対戦車ヘリコプターのパイロットだったんですよね。ちなみに『シン・ゴジラ』は観てますか?
砂川 対戦ヘリ隊の飛行隊長以下、8人ぐらいで飲み会しながら観ましたよ。
鴻池 実際、パイロットの人が観てどうだったんですか?
砂川 めちゃくちゃ面白かったですね。映画観てみんなで盛り上がりましたから(笑)。
鴻池 へぇー。なんか色々、対戦ヘリのこととか、もっと聞きたいんですけど……。今日は純文学がテーマなのでやめときます。
砂川 そうですね、私の汗臭いイメージがもっと強くなっちゃうので。ホントはもっとポップでキュートな兼業作家なのに(笑)。
鴻池 ははは(笑)。それ、もっと言ったほうがいいですよ。
砂川 メルヴィル、安部公房、村上龍さんとか大好きですし、そっちのほうを本当はもっと話したい(笑)。
鴻池 砂川さんの作品って、やっぱり〝純文学〟だなと思いますもんね。
砂川 小難しくて、偉そうでって、鴻池さんがエッセイで「純文学」を定義されていたけど、私の作品も大衆を小馬鹿にしている感じがあるってことですか?
鴻池 いや、そういうことじゃない(笑)。すごく文体がハードボイルドで硬質な作品が多いですよ。僕は砂川作品大好きですね。
砂川 正直、書いているときのことをよく覚えてないんですよ。書き終わったら自分の作品は二度と読まないですからね。それに、他の本もあまり読み返さないかもです。
鴻池 繰り返し読む本もないんですね?
砂川 読み返したいけど、未読を優先してしまう感じですかね。もう、本当に時間がなくて、切羽詰まっていて……。他の小説家のみなさんより読んでないし書いていない自信がある。
鴻池 そんなことないでしょう! だってもう連載もしてらっしゃるし。
砂川 ええ、そうなんですけど。連載こそ本当に焦りの極致でした。来年、完結する予定なんですけど、実はもう書き終わっているんです。
鴻池 すごい! いや、焦り過ぎですよ。砂川さん、真面目なんですね。
砂川 いつも、切羽詰まってるんですよ。
鴻池 いやいや、意味がわかんない。書き終わっているなら、切羽詰まってないから(笑)。書いてないと不安ですか?
砂川 そうですね。〝読み書き〟してないと不安なんですよね。小学生みたいだけど(笑)。
鴻池 編集者とかに「早くしろ!」とか催促されているわけでもないでしょう?
砂川 担当編集者さんとの打ち合わせとかで、よく次の締切を決めるじゃないですか。私の場合、自分の中でそのとき提示された締切より手前に期日を設定して、もうちょっと早くできるか、ってやってるうちにどんどん切羽詰まってくるんです。
鴻池 違う違う(笑)。それは詰まってないのに自分で詰まらせてるんですよ。
砂川 連載始めたときは、本当にヤバくて……。いまもそうですけど、兼業なので、平日は、毎朝4時に起きて仕事前に書く。土日は、休みなのに午前中喫茶店で書くみたいな生活でした。きついんだけど、やめられない。書くのやめたら死ぬぞと思っていましたね(笑)。