高山 私はいわゆる〝ロスジェネ〟と言われる世代で、就職がないのでバイトで食べていくという人も周りには多かったんです。私は何とか就職できたので働いていたんですけど、なんかわけのわからない働き方をしてた(笑)。平日は普通に会社で働いて、土、日は絵を教えるバイトや、イベントスタッフの登録バイトみたいなことまでしましたね。そんなことしていたら、30歳を超えてくたびれちゃったんです。そこから、好きなことをしようと思って仕事をセーブして、好きだったけどいままで、時間がなくてできなかった映画やお芝居を観に行く、美術館に通うとかを始めました。さらに大学の社会人講座とかいくつかの教室に通うようになったんです。そのなかで、小説教室だけ先生にほめられた(笑)。だから、色んなボールを投げていて、うまくボールが返ってきたのがたまたま小説だったんです。
鴻池 ほかにはどんな教室に通っていたんですか?
高山 評論っぽいものとか、レポートをみんなで書いて発表する教室とかにも通ったんですけど、なんか小説教室だけ先生が「作品面白い、続けたほうがいい」と言ってくれたんですよ。
鴻池 たまたま小説だったとおっしゃいましたけど、色んなボールを投げる行為、小説教室に通うこと自体が特殊なことのようにも思えます。高山さんのなかに、小説に限らず絵も含めた創作に対する情熱があったということですよね? だって教室って作品を先生とかほかの生徒に見せなきゃいけないでしょう?
高山 一番大きい理由は美大に通ったことだと思います。美大は絵を描いて、先生に見せて大学入学が決まるわけですよ。入学したら、授業でも絵を描いて先生に見せて、場合によっては学外のコンペに出したりするんですよ。
だから、書いたもの、作ったものを人前に出すことにあまり抵抗がないんです。学生の頃から慣れっこになっているので、「書いたからしまっておこう」という発想があまりない(笑)。
鴻池 できたものは人に見せるものというのが身体にしみついているんですね。
高山 そうですね。いまは「文学フリマ」で自分の作品を同人誌に載せて売る。Kindleのセルフパブリッシングなんかを利用して、自分で自作を電子で売ることもできますよね。こういう方法に懐疑的な方もいるかもしれないけど、私はポジティブに考えています。これは美大時代から、出来上がった作品を人前に出すのが恥ずかしいとか嫌だとかはなくて、出すものだと思っているので、発表するのが当たり前というか。
鴻池 美大時代に洗脳された(笑)。
高山 そうかも(笑)。でも、これは普通じゃないんだなとも思うんです。だから、ある日、突然、「小説家になろう!」と思って作品を応募し始める人もいるわけでしょう。
鴻池 僕はそうですよ。大学入って、何かやんなきゃいけないって悶々としてて、ふと、急に「小説家になればいいんだ!」って気づいたんです。
高山 本当ですか?
鴻池 ええ、そこは「なんで?」と言われても答えられないんです。夏の暑い日に大学行くためにアパートの鍵をガチャッて閉めたときに「あっ小説家になればいいんだ!」って天啓みたいなものがあったんですよ。それまで、特別に読書家だったわけじゃなかったんですけどね。
高山 相当、暑かったんじゃないですか(笑)。
鴻池 ええ、暑くて脳がやられていたのかもしれませんけど(笑)。いや、でも本当に〝小説家になればいいんだ〟って思いましたよ。ただ、僕はひたすら一人で応募してましたね。創作する人とつながることはなく、誰にも完成した作品を見てもらうことなく、6年投稿し続けましたからね。
高山 えっ、すごい! 6年よく続けられましたね。私は絵で、創作したら人に見てもらうという経験があったので、小説を書いたときにも応募できましたけど。応募するために「よしっ、小説を書いてみよう!」に至る部分は、すごい奇跡だと思います。
鴻池 たしかにほかのジャンルとは違う、小説を公募に出す文化みたいなものはありますね。小説家を目指している人って変な状態だと思うんです。「小説家デビューによって人生一発逆転だ!」みたいな(笑)。
高山 でも、私はそのマインドが好きなんです。変な話しますけど、私はNHKの『のど自慢』とかすごい好きなんです。あれに出ることって「人生一発逆転」みたいな感じ、ありません?
鴻池 ありますね。
高山 これはバカにしているんじゃないんです。私は『SASUKE』とか素人参加型の番組がとても好きなんですよ。
鴻池 『アタック25』とかクイズ番組みたいなやつもありますね。
高山 そう、大好き(笑)。何が好きかって『SASUKE』に出るために、きっと家に練習する場所とか作って、1年間頑張ってあの舞台に臨むわけでしょう。
鴻池 だから『SASUKE』の強いやつの肩書は「無職」が多いんですよね(笑)。
高山 そうそう(笑)。だけど、たまに「〇〇会社営業部」とかで出場する人がいるんですよ。なんか本当に「この人、いますごい輝いている!」みたいな気持ちになって感動しちゃうんです。小説を応募する人もそれに近いんだと思う。
鴻池 愛らしい気持ちになるんですか?
高山 人間賛歌したくなる(笑)。人間って尊いものだなと。毎日、仕事してきっと何かきっかけがあったわけでしょう。さっきの鴻池さんの天啓じゃないけど、「あっSASUKE出よう!」みたいな。想像すると、すごい胸がギューッてなるんですよ(笑)。
鴻池 ははは(笑)。でも、わかるかも。