砂川 いや、〝今〟性が強過ぎると、ダメだと思う。小説というか文字の表現は、時間芸術って言ったらすごい大仰だけど、時間をいくらでも飛ばせる。なのに、飛ばさないで素直に書いて何やってんだろうって思っちゃうときがあるんですよね。前に、時間飛ばして書いてみたら、編集さんから「全然ダメ」みたいに言われて、「ごめんなさい」って(笑)。試したことはあるんです。でも、難しいなと思いますね。
だから、時間の飛ばし方もそうだし、鴻池さんの作品は、「うわっ、俺、書きたいけど、これ書けないな」と思いました。
鴻池 うーん。いや、でも、こうやって聞かれるとわかんないですね。自分でどうやって書いてるのかって、説明しようがないですね。
砂川 書いているときはトリップしています?
鴻池 どっちだろう……。てか、俺、今日質問されてばっかりだ。どうしよう。ゲストは砂川さんなのに。
砂川 いや、私、本当、同世代の小説家の方と話したことなかったんで、めっちゃ興味津々なんです。
鴻池 あっ、じゃあ、今度作家同士で集まりましょう。
砂川 同期会(笑)。
鴻池 そうですね。僕らは2016年デビューで同期ですもんね。僕は大体、2016年前後にデビューした人たちとは、なんとなくつながっているんですよ。
砂川 なるほど。いや、でも私は、多分欠席ですね……。
鴻池 ダメ? なんで?
砂川 いや、なんか、お互いの作品を批評できます? ダメな作品だと思っても面と向かって「おい、おまえ、なんだ、あの作品は」って批判できます?
鴻池 いや、それはできないですね。
砂川 前に安部公房の全集を読んでいたんだけど、そこに安部公房と三島由紀夫と、最近、亡くなった大江健三郎の3人の鼎談が収録されていて、すごく面白かった。大江が三島に「ファシストな感じがあります」と言ってみたかと思えば、安部が「ちがう、擬似ファシストだ」と言ってみて、その擬似は芸術的という意味ですよと大江がフォローすると三島はすかさず「君もファシストか」なんて大江に言っていたりして。
鴻池 ああ、いいですね。
砂川 それで、大江も「フランスの右翼は魅力がある」みたいなことを言って認めていたりする。3人がお互いを批評し合っていて、すごくいい関係だなと思って。あれは憧れますね。
鴻池 そういう健全な関係なら、作家同士でつるむのもいいかなっていうこと?
砂川 健全と言ったらおかしいですけど、作家同士に批評性がなくなってしまうと、趣味の世界になっちゃうのかなと。
鴻池 なるほど、そうか。
砂川 でも、私自身、他の作家の作品を面と向かって批判できるかというと多分、難しい……。なんというか、すごい根がいい人なもので(笑)。
鴻池 褒めちゃうと。
砂川 根がいい人なんで悪く言えないんですよね、なのでこれもギリギリです(笑)。
鴻池 わかります。俺もそうですもん(笑)。
砂川 いや、本当に、「おまえのここクソだよ」みたいなこと絶対面と向かって言えないだろうから、自分はダメだなって思います。そういう作家同士のコミュニティに入っていったら自己嫌悪でもう死ぬなぁと思って(笑)。だから、絶対にツイッターもインスタもやらないし。
鴻池 えっ! ネットでエゴサも全くしない?
砂川 極力見ないようにしてます。見たら死ぬんで。
鴻池 ああ、繊細なんですね。
砂川 いや、もう意外と(笑)。でも、妻は「こんなこと書かれてるよ~」とか教えてくる。「言ってくんな! 俺死ぬぞ」って(笑)。
鴻池 そうなんだ。
砂川 この企画の記事をサーッと見た感じ、どなたも主体性というか〝個〟がすごくある感じがしていて……。私は常に周りのことばかり気にしてしまうんですよ。だから、「俺が小説家のなかで一番、カスだ!」とか思っちゃう。「書いてないし、何も読んでないし、ゴミみたいな奴だ。もう死のう、いや待てよ、書こう! とりあえず書こう!」って自分を鼓舞しています(笑)。
鴻池 砂川さんには闘争心が必要なんですかね。常に尻に火がつくっていうのも、誰もつけた覚えはないのに。
砂川 確かに(笑)。自分で着火してるんですね。
鴻池 自分で燃やして、燃やして、がんばろうとするんだ。
砂川 がんばるというか、けっこう人任せで。だから主体性がないんですよ。なんかもう自分はつくづく小市民だなって思います。その小市民の怒りを小説で表現してやろうじゃないかというところはあるかな。
鴻池 〝怒り〟をポジティブに捉えているとインタビューでも答えてましたね。
砂川 ええ、〝怒り〟をうまく燃料にできたらいいなと思うんです。
鴻池 最近、何に怒りました?
砂川 最近? うーん……。統一教会?
鴻池 いいっすね。至極真っ当な〝怒り〟を表明してますけど(笑)。
砂川 そうですね(笑)。これが小市民の怒りですよ。