歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
八重垣姫(やえがきひめ)
上杉謙信の娘という設定だが架空の人物。たとえ政略結婚であっても、フィアンセの武田勝頼へ熱烈にラブアタックする純情一途な姫君。勝頼に迫る危険を知らせるため、狐霊宿る諏訪法性(すわほっしょう)の兜(かぶと)を手に、氷張りつめた湖を渡る。身を賭して貫く恋心が最後は実を結ぶ。三姫の筆頭に挙げられる役。人形振りで演じられることもある。『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』(1766年初演)。
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雪姫(ゆきひめ)
絵師、狩野雪村の娘。祖父は名高き雪舟。金閣寺の庭木にくくられ、恋人を助けようにもできない絶体絶命の窮地、祖父伝来の故事にならい爪先で鼠を描いてみると、魂の入った鼠が縄を食いちぎって助けてくれた。散りさかる桜の木の下で起きた奇譚。赤い振袖が象徴的な他の二姫に対し、三姫中唯一、鴇(とき)色を着る。『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)』(1758年初演)。
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曽我兄弟(そがきょうだい)
兄は曽我十郎祐成(そがのじゅうろうすけなり)、弟は曽我五郎時致(そがのごろうときむね)。父の敵、工藤祐経(くどうすけつね)をねらい、じっと我慢の末、兄弟助けあって仇討ちを果たす。曽我物と呼ばれる多くの作品に登場。かの有名な助六も五郎の仮の姿、同じ作品に登場する白酒売り、新兵衛も実は十郎のことである。負けん気が強く無鉄砲な弟と、分別をわきまえた理知的な兄のバランスが絶妙。
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揚巻(あげまき)
吉原にある三浦屋でトップの花魁(おいらん)。花川戸(はなかわど)の助六(実は曽我五郎)とは義母公認の深い仲。五節句になぞらえた豪奢(ごうしゃ)な衣裳の重さは20kg以上もある。揚げ(稲荷ずし)と巻き(太巻き)の折り詰めが助六と呼ばれるのはこの役名に由来する。数ある女形の登竜門のうち、これは最高峰に位置する役。『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』(1713年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】