歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
静御前(しずかごぜん)
源義経の愛妾(あいしょう)。都落ちをする義経から同行を許されず一人残されていたところを、どこからともなく出現した義経の家臣、佐藤忠信(ただのぶ)に助けられ、桜満開の吉野山を同道する。実はこの忠信、鼓皮にされた親狐を慕って子狐が化けた姿。人間以上の情深さを見せる狐の親子と、静が貫く義経への想いが重なる。『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』(1748年初演)。
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熊谷次郎直実(くまがいのじろうなおざね)
源氏方の武将。義経から敵方の将、平敦盛(実は天皇の秘子)を救えと暗に命じられる。恩人の子を、わが子小次郎の命と引き換えにしても助けざるを得ない苦渋の選択、親としての葛藤、終末の無常観が描かれる。型によって演出も変わるが、特に初世中村吉右衛門の演技は名高い。『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』(1752年初演)。
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阿古屋(あこや)
平家の侍、悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)の愛人。景清の行方を詰問する源氏方の白州へ引き出される。役人の差し出す琴・三味線・胡弓の三曲を弾き、その調べによどみがなければ晴れて潔白という英断。寄せる愛情を悟られまいと気丈に奏でる曲はいずれも名曲で、芸の見せどころでもある。三曲は真女形の必修科目。『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』(1732年頃初演)。
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いがみの権太(いがみのごんた)
実家はすし屋。勘当同然のごろつきで、父の留守をわざとねらって母親から小遣いをせびる呆れた輩(やから)。父の帰宅にあわてふためき金を隠すが、あとで中から出てきたのは取り違えた生首。源平争乱の後、平維盛(これもり)を必死にかくまう父の深意を知って改心し、自分の妻子を犠牲にして誠意を尽くす。『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』(1748年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】