元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)
善を助け悪を懲らしめるスーパースター。通常の倍の長さはある大太刀を一振りすると居並ぶ奴(やっこ)の首がゴロゴロと飛ぶ。車鬢(くるまびん)という鬘(かつら)、両翼のような力紙(ちからがみ)、凧のように張った大紋(だいもん)という歩きづらそうな長袴(ながばかま)、すべて役者の体を一層大きく見せるための工夫。登場する時の「しばらく」というせりふがそのまま題名に。歌舞伎十八番の内。『暫(しばらく)』(1895年現行演出)。
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髪結新三(かみゆいしんざ)
腕利きの髪結いだが実は入墨者。立ち聞きした話に便乗してひともうけを企む。善人を装っていたのに急にあっけらかんと悪人へひるがえるさまには唖然(あぜん)。ハッタリと凄みを武器に金を引き出そうと駆け引きの末、親分の鼻をへし折って愉快なのも束の間、結局は狡猾(こうかつ)な大家にいいように持っていかれ、その大家も空巣に入られるという顛末(てんまつ)。長屋に響く初鰹の売り声が夏の匂いを掻き立てる。『梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)』(1873年初演)。
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浮世又平(うきよまたへい)
一途だがしゃべりが不自由なために、絵師の修業を積んでも、いっこうに一門の証(あかし)である名字をもらえずにいる。結果を出そうと気ばかり焦るものの、師匠からも絵師としての手柄を立てなければ名字はやれないと一喝され、絶望の淵へ落とされる。ところが、死を決意して、手水鉢(ちょうずばち)に描いた最後の絵が裏まで貫通するという奇跡が起こり、めでたく名字を与えられる。『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』(1719年初演)。
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お染(おそめ)
商家の箱入り娘。丁稚(でっち)の久松(ひさまつ)と恋に落ちるが、身分違いの恋はいつの世も許されぬ宿命。むりやり他家との縁談を推し進められそうになり、また久松も故郷の野崎村へ戻されて同じように縁談が持ち上がったので、慣れない旅路もいとわず久松の元へ逃避行。恋敵は田舎娘のお光。おぼこい少女を駆り立てた恋は、やがてお光を尼にして身を引かせるほど強くはげしい。『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』(1785年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】