元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
信夫(しのぶ)
吉原へ売られた姉を探しに田舎から一人江戸へ。誘拐されそうになったところを揚屋の主人に救われ、やって来たのはこの店ナンバーワンの宮城野太夫(みやぎのだゆう)の部屋。垢抜けない東北なまりを笑われるが、その方言と守袋(まもりぶくろ)の符号により宮城野が姉とわかった。非業(ひごう)の死を遂げた父の仇討ちにたつ姉妹を、主人は人情あふれる差配(さはい)で温かく送り出してやる。吉原の華やかなしつらえも見もの。『碁太平記白石噺(ごたいへいきしらいしばなし)』(1780年初演)。
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天竺徳兵衛(てんじくとくべえ)
鎖国前、インドへ渡り漂流記を書いた実在の船頭。歌舞伎では、名剣を手中に収め天下を狙う妖術使いとして描かれる。異国譚を披露するために出向いた館で、謀反の夢半ばで果てようとしている父と出会い、末期(まつご)に秘伝の術を託されてその志を継ぐ。特技は蝦蟇(がま)の妖術。弱点は巳年生まれの女の血、それを浴びると妖力を失う。当時珍しかった木琴の演奏シーンもあり。『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』(1804年初演)。
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白拍子花子(しらびょうしはなこ)
夜風に飛ばされた帽子を若武士に拾われて始まる波瀾万丈の人生。武家の息女から旅瞽女(ごぜ)への流転の人生を支えたのは、扇にしたためられたその男の歌一首という、すれ違いばかりのメロドラマ。泣いてつぶれたまぶたの向こうに恋い焦がれた男がいるとも知らず、思いを込めて琴を演奏する姿が悲しい。体面に縛られて言葉すらかけてやれない男の弱さに喝!『生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)』。(初演年不詳)。
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梶原平三景時(かじわらへいぞうかげとき)
名刀の鑑定を依頼された腕に覚えありの武士。所属は平家だが、源頼朝のカリスマ性に当てられて実は隠れ源氏派である。刀は源氏挙兵のための軍資金目的で売られたもので、売り主が「二つ胴」という二人を一気に斬る試し斬りに、自分の体を提供する姿を見て、秘かに救ってやろうと斬る役を志願。鈍刀とみせかけて手に入れた名刀は、石の手水鉢(ちょうずばち)を真っ二つにするほどのものだった。『梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)』(1730年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】