次に国語です。英語とは大きく異なり、従来のセンター試験をほぼ踏襲した内容となりました。例えば、試行調査で出されていた「実用的文章」や「詩・エッセイ」は出題されませんでした。試行調査の出題には国語教育の専門家からも多くの批判がなされ、私自身も従来のセンター試験の問題の方が大学教育に必要な読解力・思考力を試す点で良質であると考えていましたから、今回のような内容になったこと自体には反対ではありません。
しかし今回の国語の試験内容について、指摘しなければならない問題点があります。一つは共通テストの試験形式と内容が、試行調査と全く違うものになったことです。
17・18年度の試行調査は大問の数がいずれも5題で、大問が4題だったセンター試験とは大きく異なりました。また、両年度とも「実用的文章」が出題されましたから、これは共通テストとして外せない題材だったと見るのが普通です。そして試行調査の各大問ではセンター試験と異なり、複数の題材を関連させる形式の出題が圧倒的多数でした。
今回は第1回の共通テストなので「過去問」はありません。ですから試行調査の問題を、本番の試験に類似しているだろうと予想して一種の過去問のように扱い、対策を行ってきた受験生は大勢います。
試行調査には、質の高い入試問題を作成するにあたっての事前調査という目的に加え、受験生に適切な情報提供を行い、試験準備をしやすくする意図もあったはずです。本番の試験の出題傾向が試行調査と大きく変わったことは、少なからず受験生の混乱を招いたと言ってもよいでしょう。適切な情報提供を行うのであれば、記述式問題の共通テストへの導入を見送った後に再度の試行調査を実施するか、それまでの試行調査形式ではなくセンター試験形式の出題がなされることを受験生に伝えるべきだったと思います。
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二つめは、センター試験をほぼ踏襲したとはいえ、試行調査型の問題が出されたことです。第1日程では、「評論」は生徒のノートの穴埋めと異なる文章との照合問題が、「小説」では本文の批評に関する問題が出されました。「漢文」でも複数資料を踏まえて理解力を問う出題がなされています。試行調査ほどではなかったものの、複数の題材を関連させる問題が頻出しました。これら複数の題材を関連させる問題が、受験生の思考力や判断力を問う内容になっているのかどうか、またそこで問われている内容が、複数の題材を関連させなければならない必然性があるのかどうか検討される必要があると思われます。
複数の題材を関連させる問題の場合、どうしても問題文の量を増やすことになります。決められた試験時間内で問題文の量が増えれば、読解力に基づく思考力よりも、情報処理を素早く行う「作業」が重視され、英語の試験と同様の問題が起こるとも考えられます。
国語については、問題作成にあたった専門部会の複数の委員が、導入予定だった記述式問題(「実用的文章の出題」「複数の題材による問題」が多数)の例題集を出版し、利益相反などの疑念を指摘されて辞任する事件が起きました。その影響なのか、今回の出題では実用的文章の出題や複数の題材による問題が、特に避けられた可能性があります。もしそうであれば、時が経つにつれて試行調査型の問題が広がっていく危険性がありますから、今後の動向を注視する必要があるでしょう。
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20年度の大学入試は、新型コロナウィルスにも影響を被りました。共通テスト第1日程終了後の1月21日、宇都宮大学は感染拡大防止や受験生の健康と安全を理由に、大学が実施する2次試験(個別学力検査)の中止を発表しました。また2月3日、信州大学の人文学部・経法学部も同様に2次試験を中止しました。いずれも入学試験の合否は、共通テストのみで判定することになります。
感染拡大の防止や、受験生の健康と安全を守ることの重要性は理解できます。しかし、共通テスト終了後に選抜方式を変更するのは、重大なルール違反だと言えるでしょう。
受験生は、共通テストと個別学力検査の両方が課されることを前提に試験準備を進めています。これでは共通テストを重視して準備してきた方が有利、2次試験を重視して準備してきた方が不利となります。また、2次試験の中止は受験生に志望大学の変更をもたらし、ひいては難易度にも影響をおよぼすなど、入試の公平性・公正性が失われることとなります。両大学は、遅くとも共通テストの実施前に中止を伝えるか、それができなければ日程や方式を工夫してでも実施すべきであったと私は思います。
大学入試の重要な原則は、(1)大学教育を受けるのに必要な能力を的確に測る内容であること、(2)事前に適切な情報提供を行い、すべての受験生が準備しやすい環境を整えること、(3)入試の公平性・公正性が維持されること、の3点だと私は考えます。今回の大学入試でこれらに適さない事例が出ていることは大きな問題です。若者たちの将来のためにも、入試の重要な原則が守られることを強く求めていかなければなりません。