このように多くの女性たちが、生理について苦しんでいる思いを発信しています。そこには生理に対する理解不足や、性に対するタブー視があることが見てとれます。子どもにしてみれば性のことだから言い出しにくい、相談できないという面があるし、親にしてみれば理解不足で子どもに抑圧をかけている面もあります。特に男性の理解不足は目立ちます。父子家庭で育つ女の子がこの問題で苦しむ例が多いと、さる養護教諭から聞いたこともあります。これまでの性教育のあり方も影響しているかもしれません。
こう話をすると、「生理の貧困」は若者の経済的困窮が原因なのだから「親/夫のネグレクト・虐待」や「性教育の遅れ」とは区別して考えては……といった意見も出てくるでしょう。しかし、私はこれらも含めて考えたほうがよいと思います。「貧困」とは経済的困窮のみを指す言葉ではありません。社会的関係性の希薄さや、知識・教育の未熟さをも含む広がりのある言葉です。「親/夫によるネグレクト・虐待」は「関係性の貧困」と捉えることができますし、「性教育の遅れ」は「知識・教育の貧困」と捉えることが可能です。
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そして「生理の貧困」が第三に提起したのは、隠されてきた課題の可視化です。
女性たちの声に耳を傾けると、「生理の貧困」に苦しんでいる人は、実は以前からたくさんいたことがわかります。しかし社会問題として取り上げられたことは、近年まで一度もありませんでした。生理が身体や性に関わる事柄のため、当事者である女性に「隠したい」という心理が働き、助けを求めにくいという事情が読み取れます。誰にも打ち明けられず一人で我慢する人がほとんどで、隠れた場所で強烈な不快感や痛みと闘ってきたのです。
こうして隠されてきたことが、全人口の約半分が当事者になりうるにもかかわらず、政策的対応がなされてこなかった要因です。男性中心主義社会の中で、排除の力学が働いていたとも言えるでしょう。適当なケアを受けられないことで身体に負荷をかけるだけでなく、精神的にも女性の尊厳を傷つけることにつながる点で、人権侵害であることは明白です。まさに可視化されづらい課題でした。その隠れた課題が可視化されるようになったのは、「生理の貧困」の大きな意義だったと思います。
冒頭の「日本の若者の生理に関するアンケート調査」で、過去1年に生理が原因で生活にどのような支障があるか聞いたところ、「学校を欠席や早退、遅刻したことがある」が48.7%、「アルバイトなどの仕事を休んだ」が31%、「就職活動などを諦めたことがある」が6%でした。生理が原因で、女性たちの活動が悪影響を受けていることが分かります。これらは女性の社会進出にも影を落とす深刻な人権問題です。特に「学校を欠席や早退、遅刻したことがある」が、半数近くにも達していることは重大です。女性たちから「教育を受ける権利」(憲法第26条)が奪われていることを意味するからです。
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「生理の貧困」は女性に対する重大な人権侵害であり、政府も解決に向けて動き出すべきです。すでに世界的では、大きなうねりとなっています。
20年11月、英国のスコットランド議会は、タンポンやナプキンなど生理用品を無償で提供する法案を全会一致で成立させました。21年2月、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、6月から「生理の貧困」対策としてすべての学校で生理用品を無料提供すると発表しました。またフランス政府も21年2月、生理用品を買えない「生理の貧困」を無くす国際的な動きに同調し、すべての学生に生理用品を無償提供すると発表しました。
日本でも同様の動きが始まっています。兵庫県明石市は、21年4月から市立の学校の保健室や公共施設などで1人につき1袋26個入りのナプキンを無償で配布すると発表しました。また、東京都品川区では21年4月から、区立の小中学校など46校で小学4年生以上の児童が使う女子トイレに生理用品を設置する取り組みを新たに始めました。
女性の貧困問題、性教育のあり方などを根本的に解決することが求められますが、今、早急になすべきは困っている女性に生理用品を届けることだと思います。小学校、中学校、高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校など全教育機関で、生理用品を無償配布すべきです。そのことは、女性の「教育を受ける権利」を守ることにつながります。学生以外に対しては、公共施設での無償配布が有効でしょう。
ただし「生理の貧困」は、個々人の性に関わるデリケートな問題です。生理を「恥ずかしいもの」と捉え、隠してきた社会の風潮は変えていく必要があります。しかし、女性自身が生理について話すことや生理中であることを恥ずかしいと思う気持ちも、最大限尊重されなければいけません。学校や公共施設での無償提供の際には、「今、生理中で困っている」ということを開示せずに、誰もが必要な時に手に入れられる環境をつくることが重要だと思います。
このように「生理の貧困」は若者全体にとって大きな問題です。社会は一刻も早く応える責任があると思います。