次に学校現場の側の課題です。中学校と高校に対して「ヤングケアラー」という言葉を知っているかたずねたところ、「知っている」と回答した中学校は58.1%、全日制高校は62.6%でした。逆に「知らない」と回答した中学校は25.7%、全日制高校は21.3%に達しており、学校現場にはまだ十分浸透していないことが分かります。
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こうしたヤングケアラーへの対応では、児童・生徒をとりまく諸問題の解決にあたる専門職、スクールソーシャルワーカーの介入が期待されます。しかし、中学・高校におけるヤングケアラーへの対応に関する取組み(インタビュー調査)の結果を読んでみると、スクールソーシャルワーカーは複数校に関わっているため、人員体制が十分ではないようです。週1で派遣されるスクールソーシャルワーカーの仕事は家庭訪問で埋まっているため、ヤングケアラーにまで手が回らない、支援の方向性について相談することが難しいなどの状況が伝わってきます。
ヤングケアラーが家族内の問題であることも、実態の把握を困難にしているようです。ヤングケアラーの存在を追いきれない理由を中学校と高校にたずねたところ、「家族内のことで問題が表に出にくく、実態の把握が難しい」(中学校87.7%、全日制高校81.9%)という回答が最も多くなっています。ここには「家族内の問題には踏み込みにくい」という学校側の意識も影響していると思います。
学校は、子どもたちの家庭での様子を直接見ることはできません。ドメスティックバイオレンス(DV)のように外見に表れることがなければ、発見はより困難であると思います。さらに「困っている家族がいたら助けるのは当たり前」という家族主義の意識も強固に存在しており、ベールに包まれてしまっていることもあるでしょう。
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ではヤングケアラー問題には、どう対処したらよいのか。第一に必要なのは、「ヤングケアラー」についての認識を深めることです。学校側は、子どもたちの日常的な様子や行動から、彼らがヤングケアラーであることをできる限り読み取れるだけの視点をもつことが重要だと思います。また、当事者に「自分はヤングケアラーである」と気付かせる機会をつくることです。子どもたちに情報を提供し、彼らが当たり前のように行ってきた家族内でのケア労働が、社会問題として広く認知されていることを知らしめることが大切です。そうして自覚できれば、周囲に相談したり、助けを求めたりすることが可能になります。
第二に、学校の支援体制を改善することです。それには教員の過剰労働を是正し、彼らが子どもたちにじっくりと向かい合う時間を確保することが最も重要です(第16回「学校の先生になりたい人が減っている!?」)。加えてスクールソーシャルワーカーの人員体制や教員との協力関係を充実させることです。
第三に、子どもが世話をしている家族への支援を検討することです。ヤングケアラーとなっている子どもを把握するのが困難というなら、ケアを必要としている家族のほうを探し出して対応する。そのためには地域の医療や福祉を担う人や機関(民生委員、ケアマネジャー、地域包括支援センター、医療機関、社会福祉協議会等)が、ケアを必要としている対象者の身辺をよく調査することです。そこに子どもが含まれている場合は、ヤングケアラーの存在を疑って状況把握し、気になることがあれば要対協や学校と情報共有して対応を検討することが求められます。
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すでに述べたように、ヤングケアラーは学校生活で苦境を強いられています。「困っている家族がいたら助けるのは当たり前」という家族主義によって、彼らは家庭内でのケア労働を当然のこととして受け入れたり、我慢を強いられたりしています。家族主義のベールに隠された中で長時間の労働を行うことで「教育を受ける権利」(憲法第26条)を侵害され、子ども時代の貴重な経験や出会いの場も奪われている「犠牲者」でもあります。
普遍的福祉が実現された社会をめざすうえでも、ヤングケアラーという若者への抑圧を可視化すること、そして彼らを家族主義の呪縛から解き放つことが強く求められていると思います。