最近、現在の子ども・若者の状況を考えるうえで、とても気になる情報発信がありました。それは、4月12日に厚生労働・文部科学両省が公表した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」。この調査は2020年12月~21年1月にかけて、全国の公立中学校に通う2年生や全日制高校の2年生らを対象にインターネットで実施されました。全国の教育現場に対しては、初めて行われた調査です。
ヤングケアラーは以前、この連載でも言及したことがあります(第12回「祖母殺人に見た若者ケアラーの苦難」)が、家族に病気や障害をもつ人がいて、そのために家事や介護を担っている18歳未満の子どものことを意味します。家族の誰かが長期のサポートを必要としていて、身の回りの世話や見守りを担う大人がいない場合に、子どもなど若年者が代わって引き受ける状況が生み出されています。
この調査で「世話をしている家族がいる」と答えた中学生が5.7%、高校生(以下、すべて全日制)は4.1%いました。中学生の場合は約17人に1人、高校生の場合は約24人に1人ということになります。皆さんはこの数字にどんな感想をもちますか? 私はとても多いと思います。約17人に1人ということは全中学校で1クラスに2人以上、約24人に1人ということは全高校で1クラスに1人以上、ヤングケアラーが存在することになるからです。
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人数の多さに加えて気がかりなのは、家族の世話をする頻度と時間です。ヤングケアラーの話を聞いて、「困っている家族がいるのだから助け合うことは大切。子どもが家族のために時々手伝ったりすることは自然なことで、あまり大きな問題ではない」と思う人もいるかもしれません。しかし、今回の調査結果から見えてくるのは、もっと厳しい現実です。
家族の世話をしている中学生のうち、その頻度を「ほぼ毎日」と答えた人は45.1%で、「週に3~5日」(17.9%)や「週に1~2日」(14.4%)を上回っています。また、世話に費やす時間(平日1日あたり)は、平均4時間に達しています。「3時間未満」が42%と最も多く、「7時間以上」という回答も11.6%ありました。
高校生になると「ほぼ毎日」が47.6%で、中学生よりも高い割合となっています。世話に費やす時間は平均3.8時間。「7時間以上」という回答は10.7%に達しています。いずれにせよ、家族の世話を「ほぼ毎日」している人の割合がこれだけ高いことから、彼らの行為は単なる「手伝い」ではなく、家族にとって「なくてはならない労働」であることが分かります。
費やす時間の長さも深刻です。平均約4時間ということは、学校で過ごす時間と睡眠時間以外の相当部分を占めることになります。1日7時間以上家族を世話している生徒は、学校で過ごす時間と睡眠時間以外の自由時間を、ほぼ奪われている状態になっているといえるでしょう。
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こうしたヤングケアラーの過酷な状況は、学校生活にもさまざまな悪影響を与えています。たとえば今回の調査項目では、「提出しなければいけない書類などの提出が遅れることが多い」が23%、「宿題や課題ができていないことが多い」が22.6%と、いずれも他の生徒よりも高い比率となっています。
この問題は「世話に費やす時間」(平日1日あたり)のデータを加えると、より明確になります。「提出しなければいけない書類などの提出が遅れることが多い」は、世話に費やす時間が3時間未満の場合22.3%なのに対して、7時間以上の場合は26%です。「持ち物の忘れ物が多い」は、3時間未満の場合19.9%なのに対して、7時間以上の場合は26%。「宿題や課題ができていないことが多い」は、3時間未満の場合21.1%なのに対して7時間以上の場合は27.4%と、いずれも高くなっています。ヤングケアラーが長時間のケア労働のために、学校生活で苦境を強いられていることが分かります。
特に私が辛く感じたのは、「世話に費やす時間」と「健康状態」の関係です。「健康状態がよくない・あまりよくない」と答えた割合が、世話に費やす時間が3時間未満の場合は7.6%だったのに対し、7時間以上の場合は26%にも達しています。長時間のケアが若者たちの健康状態の悪化をもたらしている可能性が高いのです。
もう一つ深刻なのは、ヤングケアラーの多くがその悩みを相談することができず、孤立を強いられていることです。日頃、行っている世話について「相談した経験はない」という中学生は67.7%、高校生は64.2%でした。つまり6割以上が相談経験をもたないのです。
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実は、それには理由があります。第一に本人自身がヤングケアラーであることを自覚していないということです。調査ではヤングケアラーの認知度についても聞いていますが、「ヤングケアラー」という言葉を「聞いたことがあり、内容も知っている」と答えたのは中学生で6.3%、高校生で5.7%にとどまりました。
「世話をしている家族がいる」と答えた人のうち、「ヤングケアラーにあてはまる」とした中学生は16.3%、高校生は15%しかいません。日々の世話を「家族の一員として当たり前のことをしているだけ」と捉えていれば、他人に相談しようとは思わないでしょう。「誰かに相談するほどの悩みではない」と回答した中学生が74.5%、高校生が65%もいたことに彼らの意識がとてもよく表れています。
子どもを虐待などから守るため市町村に設置されている「要保護児童対策地域協議会(要対協)」への質問でも、ヤングケアラーと思われる子どもの実態を把握していない理由の一つとして「ヤングケアラーである子ども自身やその家族がヤングケアラーという問題を認識していない」という回答が66.8%にも達しました。このように支援する側にも困難をもたらしていることが分かります。