まずは18歳以後の支援を充実させることです。「解除者実態調査」では、6割の人が施設の退所時点の年齢を「18歳」と回答していますが、児童養護施設は18歳で退所が原則となっています。これは施設の設置根拠となる児童福祉法の対象が、18歳未満となっていることに要因があります。ここに「18歳の壁」があると感じます。
高卒者の就職割合が2割を切っていることからも分かるように、18歳で経済的・社会的に「自立」できる若者は現在では少数派です。就職しても自宅通勤だったり、就職後も親から支援を受けていたりする場合が少なくありません。
したがって、18歳以後も児童養護施設の利用を希望している若者に対しては、積極的に利用継続を認めるべきと思います。「解除者実態調査」の中で、「国・自治体・施設等に伝えたいこと」として「18 歳もしくは 20 歳で施設を出ていかなければならない施設が多いのでそこを大学、専門学校卒業するまで施設で生活できるような制度を作って全国に広めてほしいです」という意見がありました。こうした当事者の声に耳を傾けるべきです。
児童養護施設の利用継続によって、住居費を始めとする生活費負担の軽減ができれば、彼らの生活状況は飛躍的に改善すると思います。
児童養護施設等を出て就労自立をしようとする人たちの居住場所として、児童養護施設関係者らと当事者とで「自立援助ホーム」がつくられてきました。19年4月時点では、全国に168の施設があります。この自立援助ホームの予算や人員を充実させ、児童養護施設出身者の居場所として生かしていく方法もあるでしょう。
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学費や住宅費の負担軽減も必要です。私は20年4月に導入された「大学等における修学の支援に関する法律」には批判的ですが(本誌オピニオン「『高等教育無償化』のウソ~真の『教育の機会均等』を実現するために必要なこと」)、低所得世帯の学生を対象に学費の減免と給付型奨学金制度をセットとするこの法律は、児童養護施設出身者にとっては有効でしょう。授業料減免と給付型奨学金をさらに充実させることが強く望まれます。
児童虐待の問題に強い関心を持つ保坂展人氏が区長をつとめる東京都世田谷区では、児童養護施設や里親のもとを旅立つ若者たちに向けた「給付型奨学金」である「世田谷区児童養護施設退所者等奨学基金」制度が16年度からスタートし、開始から5年余りで1億6000万円もの寄付が集まっています。こうした自治体の取り組みにも期待したいです。
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最後に提案したいのは、児童養護施設について正しい理解と認識を社会全体に広め、施設出身者への差別と偏見をなくして日本社会の家族主義の縛りを弱めることです。
それに加えて、さまざまな契約や書類提出の際に「連帯保証人」や「緊急連絡先」として親や血縁者を求める仕組みを、できる限り減らしていくことが求められます。例えば、日本学生支援機構の奨学金を利用する際に、連帯保証人と保証人の記載を求める人的保証制度は廃止されるべきです。
当面、児童養護施設出身者に身元保証人が必要となる場合には、児童養護施設の施設長や職員が「親・血縁者代わり」となることが広く認められるべきです。児童養護施設の側からそのことを出身者に丁寧に説明すべきですし、高校、大学、専門学校、企業などにその点への周知・理解を徹底すべきだと思います。
児童養護施設出身者の若者は「依存できる家族」がいない点で、ごく普通に親や血縁者がいることを前提に成り立っている日本社会において、極めて厳しい状況に置かれています。彼らへの支援を強化することは、「依存できる家族」の抑圧に苦しんでいたり、「依存できない家族」の存在に悩んでいたりする他の若者にも、きっと役立つことになると思います。