オンライン授業の質を向上させるためには、それに適した教材の選択や説明の仕方、生徒との対話の方法など、対面授業とは異なる工夫と準備が必要です。しかし、教員の労働環境は極めて厳しい状況です。以前ご紹介したように、日本の教員の労働時間は小学校で週54.4時間、中学校で週56時間と、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の38.3時間(中学校)を大きく上回り、38カ国の先進国・地域の中で最長となっています(連載第16回「学校の先生になりたい人が減っている!?」)。
この労働環境は、教員が日々の授業をしっかり準備することさえ困難な現状を示していると思います。新型コロナが登場する前からそうした状況なので、新たな教育スタイルであるオンライン授業の準備を行う余裕を生み出すことは容易ではないと思います。そこで教員の時間確保のためにできることを考えてみました。
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たとえば感染対策として多くの学校で教員が行っている消毒作業は、一刻も早く専門業者に委託すべきでしょう。分散登校の家庭学習日に在宅ができない生徒を学校で受け入れる業務などにも、新たな人員を増やすべきです。
そして最も有効なのは、部活動時間の削減です。緊急事態宣言が広がる中、部活動の中止や縮小は一定程度行われていますが、「対外試合がある」「発表会がある」「大会出場をめざしている」などを理由に、多くの部活動が現在も続けられています。部活動は通常の授業と違い感染対策がまちまちなので、感染リスクが高く、すでに数多くのクラスターが発生しています。また、分散登校や短縮授業など「教育課程」の縮小を余儀なくされている中で、教育課程外の部活動を継続しているのは大きな問題だと思います。部活動の中止や活動時間削減によって、教員の時間を確保すべきです。
オンライン教育の充実に加えて、学習指導要領(国が定めた教育カリキュラムの統一基準)を弾力化し、内容の精選を行うことも重要です。新型コロナにも対応しつつ、学習指導要領のすべてを消化させることは困難です。20年の全国一律休校の後のように、例年通りの授業時間の確保を基本とすれば極度の詰め込み教育は避けられず、子どもたちが授業内容を十分に理解することができなくなる危険性が高まります。
学習指導要領で定められた学習内容を無理に詰め込むのではなく、精選された学習内容をじっくり学べるようにすべきです。該当学年で学べなかった内容を次学年でも学べるようにするなど、複数年度に渡った長期的な視点でカリキュラムを組み替える準備も必要です。また、入学試験が無理な詰め込みを助長することのないよう、場合によっては高校入試や大学入試の出題範囲を限定することも、今から想定しておくべきでしょう。
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これまで述べてきたことは、21年9月時点での当面の対策です。20年3月のコロナ災害発生から、すでに1年半が経ちました。諸外国の様子を見ると、ワクチン接種が進んでも集団免疫の獲得は容易ではなく、コロナ災害がさらに長期化する可能性もあります。当面の対策に加えて、長期的な視点をもった対策も今から考えておく必要があると思います。その際には現在の困難が、これまでの政策の問題点や不十分さの結果であることを認識することが大切でしょう。
日本の学校教育におけるクラス人数の多さは、以前から大きな課題でした。少しずつ減ってはきたものの、「40人」を基本とするクラス人数では、対話やコミュニケーションを重視し、生徒一人ひとりとじっくり向き合う教育は困難です。「20人」を基本とする少人数クラスを実現していれば、40人クラスを2つに分割する分散登校は、そもそも必要ありませんでした。
また、PCR検査の不足はコロナ感染対策が始まって以来の問題でした。飛沫によって感染が広がることは当初から分かっていたのですから、教員と生徒全員がPCR検査を定期的に無料で実施できる体制を整えておくべきでした。それができていれば、ここまで子どもたちへの感染が広がっていなかったかも知れません。
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オンライン教育の準備も不十分だったと言わざるを得ません。情報化社会に向けて質の高いオンライン授業を実施するのであれば、学校の環境整備はもちろん、「義務教育は無償」の原則を適用して、少なくとも小・中学生については学習機材や通信環境が教科書と同じく無償で揃えられるようにしておくべきでした。また、高校生や大学生などが学習・研究を行うために必要な通信費についても、自己負担を可能な限りゼロに近づけておくべきだったでしょう。これらの準備が進められてこなかったことが、コロナ災害下でのオンライン教育の困難をもたらしているのです。
新型コロナの長期化によって、学校教育もかつてない危機にさらされています。この状況を乗り越えるためには、これまでの政策の問題点や不十分さを認識し、反省することが必要です。そして子どもたちの健康・生命と学習を両立させる当面の対策を実行し、長期的な視点をもった対策を検討することが、私たちに強く求められていると思います。