22年6月7日、「入試改革を考える会」が都庁記者クラブで「都立高入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める」記者会見を開催。この時に都議会議員の皆さんに参加を呼びかけたところ、都議会内の野党4会派(グリーンな東京、東京・生活者ネットワーク、立憲民主党、日本共産党)の議員にご参加いただけました。このことからも分かるように、6月の時点で都議会内の野党4会派は、ESAT-J導入について中止・延期・見直しなど反対の立場を明確にしていました。
そこへ保護者の会結成による運動の広がりが加わったことで、都議会内の知事与党会派にも変化を及ぼすこととなりました。8月に入ってから都民ファーストの会所属の都議会議員が、ツイッターなどでESAT-J導入に反対や疑問の声を発信するようになったのです。先述した「夏の市民大集会」や保護者の会による要請行動にも、都民ファーストの会の都議会議員が参加していました。
そして9月7日、都民ファーストの会の都議会議員6名および元都議会議員3名の有志の皆さんが、浜佳葉子都教育長と東京都教育委員に要望書「令和5年度の都立の高等学校の入学者の選抜方法について」を提出しました。ESAT-Jを都立高入試に組み込むことには多くの問題点があり、その解決が不可欠であることを示し、テストの位置づけや点数配分、採点方法、不受験者の扱いについての明確な説明と問題点の改善を求めるものです。
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保護者の会結成の大きなきっかけである「個人情報の取り扱いに関しての疑問」が広まったことで、「入試改革を考える会」はESAT-J導入が入学試験として必要な公平性・公正性を満たしておらず、個人情報保護法違反の疑いがあるとして住民監査請求の準備を進めました。同会が呼びかけたところ、すぐに50人を超える請求人が集まりました。
9月9日、私を含む53人の請求人は、ESAT-Jについて公金の支出をしないことと、事業の停止勧告を求める住民監査請求を行いました。その請求書には、「都立高入試への英語スピーキングテスト導入が入学試験の公平性・透明性を害するおそれが大きく、公金を支出することが不当であること、そして最小の経費で最大の効果を上げることを求めた地方自治法(2条14項、地方財政法4条1項、同条の2)に違反する」と述べられています。
また個人情報を取り扱う際には、利用目的が特定されている必要があります。ESAT-Jは「円滑な実施及び個人成績票発行等の業務の実施。テストの結果の統計処理・分析」を利用目的としていますが、「円滑な実施」という点においては具体性がなく、違法の疑いがあります。それに加えて、個人情報登録の同意の取り方の問題点についての指摘も行われています。個人情報の取り扱いについて疑問や異論があったとしても、入試の点数に活用される以上、本人や保護者は「同意」せざるを得ず、「不同意」の選択肢がありません。こうした任意性のない「同意」は、個人情報保護法27条1項の「同意」としては無効であるとも請求書には述べられています。
監査請求の結果は、通常60日以内に出ます。しかし、テストの実施日である11月27日まですでに80日を切っていて、試験直前に監査結果が出ることになると受験生を大きな混乱に巻き込む危険性があります。このため、監査結果が出る前にESAT-J事業を暫定的に停止させるよう進言もしています。
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9月9日の住民監査請求後に都庁記者クラブで開かれた記者会見で、私は次のような趣旨の発言をしました。
「住民監査請求で、今回の都立高入試へのスピーキングテスト導入が法律の専門家の視点からも入試の公平性・透明性の点で問題があり、また個人情報保護法の点からも違法であるという指摘がなされました。違法・不当であることは現時点で確定はしていませんが、少なくとも法律の専門家から見ても、今回の事業が違法・不当であるのではないかという疑義が出されたことになります。
法律の専門家から見ても疑義がある事業に、保護者・都民が疑問や不安を感じるのは当然です。都立高入試へのスピーキングテスト導入にあたっては受験生と保護者に十分な説明を行い、すべての受験生と保護者が安心して受験できるようにするのが、東京都教育委員会の責任であるはずです。当初の申込み締切日である9月6日の後でこのような疑義が出されたこと自体、東京都教育委員会には重大な責任があると考えます。都立高入試へのスピーキングテスト導入は絶対に中止すべきです」
住民監査請求は多くのメディアで報道され、大きな反響がありました。4日後の9月13日、東京新聞(朝刊)の1面に、人々を驚かせるニュースが掲載されました。「都立高入試にスピーキングテスト 導入反対の条例案提出へ」という記事です。ESAT-Jについて、来年度(24年度)の都立高校入試の評価に加えないよう求める条例案を、都議会立憲民主党が9月20日開会の9月定例会に議員提案すること。その野党会派からの条例案に、なんと知事与党である都民ファーストの会の都議の一部も賛同を検討しているとの内容です。
冒頭に述べた都議会文教委員会の紛糾には、こうした背景があったのです。
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22年初頭から「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」や「入試改革を考える会」がESAT-J導入の問題点を指摘し、運動を展開してきました。そして、「保護者の会」の登場による「当事者の声」が運動に新たな力を与え、都議会を巻き込んでこの問題の行方に大きな変化を生み出しつつあります。
これは保護者・都民が自ら声を上げることで、東京都の入学試験制度や教育行政の民主化を求める動きに他なりません。都立高入試へのスピーキングテスト導入問題は、9月都議会の焦点となりました。都立高校を受験する中学3年生を入学試験制度の被害者にしないために、主権者である私たちが声を上げ、教育における民主主義を実践すべき時だと思います。東京都で実施されることになれば、全国に波及する危険性のある重大な問題です。主権者の声が教育行政に生かされなければなりません。
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