大内 なるほど。ここにいる皆さんはそれぞれ、両親や兄弟と同居することで安定した学生生活を送っているのですね。私もこの連載で「家族をめぐる問題」を取り上げたことがありました。私が大学生だった頃は「学校を卒業して働く=自分でやっていける」と、まだそういう社会でした。多くの企業が安定した雇用を保障して、大半の人が社会に出て会社に勤めれば親に頼らず生活できました。だけど昨今、社会人になっても実家から出られない人が増加している。それは自立心が薄いとかじゃなくて、一つの生活防衛なんですよね。要するに経済的な理由で出られないから出ない。「自分で好きなように生きる」という選択肢が、最初から用意されてないわけです。だから彼女の意見は、今の若い人たちの状況をとてもよく映し出している。
ひとし 僕も、あまり金銭面で不安を感じたことはないんです。でも皆の話を聞いて思うに、僕って一人っ子なんですね。それは父が「自分の収入では2人目以降は無理だろう」と、意図的に作らなかったかららしいんです。住んでるところも東京近郊で自宅から通学できるため、生活費のことなど考えず今までやってこれたのかなというのはあります。僕の周囲には同い年で短大とか専門学校を出て働いている友人もいますけど、やっぱり実家から通勤してる人が多い。それってたまたまかもしれませんが、賃金が低く生活防衛のため実家から通わざるを得ないのかな? と、今の先生の話から思い当たりました。
社会の仕組みそのものが今の若者向きでない
大内 世間では未婚化や少子化などと言うけど、こうした生活防衛の問題は、さらにその手前の話なんです。経済的に家から出られない以上、結婚なんてとてもできないでしょ? まして出産して子育てなんて、めちゃくちゃハードルが高い。じゃあここからはもう少し視野を広げて、今の社会における若者の立ち位置や境遇みたいなことで、何か言いたいことがあったら自由に発言してください。
あかり これは新型コロナの影響もあるんですが、「大学生として学生らしいこと、学生のうちにできることはしておきなさい」と、親からも周りの大人たちからも言われることが結構あったんです。でも世の中は自粛ムードで、アルバイトもできなかった。「やりたいけどできない」状況で、学生時代を楽しむこともできなかった私たちが社会に出て、世の中どう変わっていくのかな? って思うことがあります。なので、旧世代の学生像を押し付けられるのには、かなり嫌悪感がありました。卒業旅行だって私の周りには「余裕がないから行かない」という人も結構いて……。すでに負債(奨学金)を抱えて社会に出るための心構えをしている人もいるのかな、という感じもしました。そんな子たちが「学生らしいことなんてやってる場合じゃない」なんて言っても、大人は誰も理解してくれないでしょうね。
大内 それはすごくよく分かるな。確かに、不安を抱えているところに「学生は学生らしく楽しんでおけ」なんてお気楽に言われたら、反発を覚えるでしょうね。
ちかぜ ニュースなどでよく言われていますが、私たちの世代は年金もほぼ受け取れないかもしれないじゃないですか。で、これからもどんどん高齢者が増えて、より多くのお金が必要になるんですよね。一方で、それを支える子どもが減って一人あたりの負担が増えていくわけですから、やっぱり今の若者は損だと思います。上の世代の人たちは「バブル」があったりとかでいい思いをしてる。そもそも少子化になったのはどうして? 今、ようやくこども家庭庁ができて、政府がいろんな施策を打ってますけど、5兆円もの予算で子ども家庭庁を発足しておいて、出てきた政策がJリーグとコラボして親子観戦を優遇しますみたいな……バカじゃないのと思う。5兆円あれば、もっとできることあるんじゃないかな。
大内 5兆円あれば、大学の授業料を無料にもできるよね。
ひとし 政治の話が出ましたけど、今の社会を作りあげて運用しているのは、自分よりも上の世代なわけですよ。その人たちって日本が幸運なことに経済的成長を遂げた流れに乗って働いて、景気が悪くなってきた頃にはリタイアという、タイミングに恵まれたのかなというのを感じます。そういういい思いをしてきた人たちが作ってきた制度とかで、苦しい思いをしながら生きていかなきゃいけないのかと考えると、ぞっとします。社会の情勢も人々の暮らしも変わったのに、なぜ上の世代の皆さんは気づかないんでしょうか?
ちかぜ 教育費とかもそうですよね。たぶん国家予算を決めている政治家や上級官僚に、今の若い夫婦の感覚で育児をしている人が少ないから、こんなことになってるんじゃないかな。
りりこ おじいちゃんしかいない。
あかり リアルを知らない。
ちかぜ しかも出産と育児を別の問題と捉えたり、そういうところですよね。
りりこ 産んで終わりじゃなく、そこからなのに。
大内 今、二つの意見が出ていますね。上の世代の人たちが、自分たちが調子のよかった時代を前提に世の中の仕組みを考えているという問題と、制度や予算を「おじいさん」が決めているという問題。おばあさんじゃなくて、おじいさん。それってまさしく、パワーエリート層を男性が独占してきた日本社会の特徴ですね。だから「育児したことあるのか」とか、そういう話になります。確かに1960~90年代は、おそらく二度とこないであろう幸運な時期を日本社会は過ごしていて、その時のシステムのままきているわけだから弊害は避けられない。しかも日本の場合、システムを決める政界や経済界に依然として男性主導主義が残っていて影響をおよぼしています。
ちかぜ 消費税引き上げの時も、新聞は世の中の多くの人に必要なものとして軽減税率の対象に入れられたけど、生理用品は対象外品目になった。やっぱりそれって、どう考えても男の人が決めたんだろうなとすごく思いました。