1990年代半ば以降、親の所得低下によって学費の親負担主義が揺らぎ、奨学金利用の急増をもたらしました。しかし親に代わって学費を払ってくれる祖父母の登場、親や祖父母による返済援助などによって、多くの若者が苦しみながらも奨学金を何とか返済するという状況が生み出されました。いわば「学費の祖父母負担主義」「奨学金返済の親族セーフティ―ネット」によって、かろうじて返済が維持されたと見ることができます。
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しかし奨学金制度改善の動きが始まった2012年以降は、親や祖父母による学費負担、奨学金返済援助を支える経済的基盤も急速に弱体化してきました。世帯所得の中央値は12年の432万円から、23年には405万円へとさらに低下。また13年度まで5%だった消費税は14年4月に8%、19年10月には10%へと引き上げられました。加えて00年の年金制度改正によって、老齢厚生年金の支給開始年齢が段階的に60歳→65歳へと引き上げられることになりました。もはや親や祖父母世代が若者を援助することさえ、困難な時代になりつつあるといえるでしょう。
ちなみに私自身は、こうした親や祖父母による学費負担、奨学金返済援助をよいものとして評価してはいません。親や祖父母による学費負担は裕福な家庭と、そうでない家庭とで教育格差を拡げることにつながりますし、奨学金の返済援助は親や祖父母による管理を強め、当人の自由や自主性を抑圧する場合も少なくないからです。しかし、その一方で親や祖父母による協力が、「貧困化する若者」を救う役割を果たしてきた面があることも見逃してはならないと思います。
近年、奨学金制度の改善が進んできたにもかかわらず、現在も多くの若者が苦しんでいるのは、若者を取り巻く状況がより一層厳しくなったからです。これまで一定の役割を果たしてきた親や祖父母による学費負担主義、奨学金返済セーフティーネットの弱体化で、学費を自己負担しなければならない学生、奨学金をすべて自力で返済しなければならない若者が、今後も間違いなく増加します。映画『威風堂々』の重要なテーマの一つが「若者と親・年長世代との葛藤」になっているのは、そうした社会現実を的確にキャッチしていることを示しています。
奨学金制度は着実に改善されてきたものの、学費や奨学金返済を親/祖父母に依存してきた構造を突き崩すまでには至りませんでした。そして、それは今も多くの若者に重くのしかかっているのです。そうした現状を打破し、若者の未来を切り開くために制度の抜本的転換が求められています。