2021年度の大学入学共通テストの出願時期が迫ってきました。
大学入試センターによれば、来年度の本試験実施日は「第1日程」が1月16・17日、「第2日程」が1月30・31日です。後者は第1日程の追試験を兼ねており、第2日程の追試験は「特例追試験」として2月13・14日に別途実施されます。
ここで注目すべきは、例年と違って2つの試験日程が設定されている点ですが、なぜそんなことになったのでしょうか?
20年6月19日に公表された「令和3年度大学入学者選抜実施要項」(文部科学省)には、〈入学志願者が新型コロナウイルス感染症の影響に伴う学業の遅れや同感染症に罹患した場合等にも対応できる選択肢を確保するため〉とあります。つまりは新型コロナによる一斉休校に対する特例措置なのです。
そのため第2日程を選択できるのは新型コロナで学業に遅れが生じ、学校長の承認を受けた現役生のみです。既卒生は第2日程を選べません。ですが、果たしてこの制度は今年の高校3年生の「学業の遅れ」への配慮になっていると言えるのでしょうか?
第2日程の試験期日は、第1日程の2週間後になります。したがって試験準備期間も2週間多くとれることは確かです。しかし新型コロナウイルスによる高校の一斉休校期間を全国的に見ると、地域による違いはありますが、約3カ月におよんでいる学校が多いです。約3カ月の休校期間を、2週間で取り戻すというのは整合性があるとは思えません。
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また、大学入学共通テストの後に多くの受験生が受ける国立大学の個別学力試験(2次試験)は、例年と変わらず2月25・26日に実施されます。つまり第2日程で受験した高校3年生は、第1日程で受験した人よりも短いインターバルで国立大学の個別学力試験にのぞまなければいけなくなります。
第1日程で受験すれば2次試験まで約40日ありますが、第2日程で受験すると約25日しかありません。これは現役で受験する高校3年生にとって、小さくないと思います。この点を考慮に入れると、第2日程での受験が有利であるとは限りませんし、「学業の遅れ」に効果があるかどうか大きな疑問です。
たとえ第1日程よりも2週間長く受験準備にあてることができるとしても、第2日程の試験問題の難度が第1日程よりも高くなれば、試験準備期間が2週間増えても有利性はなくなります。「学業の遅れ」の救済どころか、受験生にダメージを与えることになるでしょう。後に述べますが、試験問題の難易度の調整はとても困難です。
しかも第2日程の受験者数は第1日程より少なくなることが予想されますから、試験会場の数や設置地域も少なくなる可能性が高いでしょう。試験会場へのアクセスが不便になったり、宿泊が必要となったりする場合も出てくるかもしれません。交通費や宿泊費の負担が重くなる可能性があります。そうなれば、英語民間試験の活用に対して出た批判が、第2日程の大学共通テストにもあてはまることになります(本連載第1回「萩生田文科相『身の丈』発言が生み出した教育国会」)。
病気や交通事故、自然災害等に見舞われたり、新型コロナウイルスの濃厚接触者に指定されて受験できなかったりした場合の追試験においても、第2日程だと不利な要素があります。第1日程の追試験が「本試験と同じ出題方法」であるのに対し、第2日程の追試験(特例追試験)は、緊急対応として過去に作成された「大学入試センター試験」用の問題が出題されます。今回から新たに始まる大学入学共通テストとは出題科目、出題方法、試験時間などが異なっているので、受験生は大学入試センター試験に合わせた準備をしなければなりません。
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このように、第2日程で受験することが「学業の遅れ」への配慮となるかどうかは極めて怪しく、また第1日程で受験するより不利となる可能性も高いと思われます。
しかし、大学入学共通テストを第2日程で受験すると、第1日程で受験するよりも100%有利な点があります。それは第1日程の問題を見て、大学入学共通テストの出題傾向を事前に把握することができる点です。これは、21年度の大学入学共通テストが、昨年までの大学入試センター試験から形式が大きく変わり、1回目の試験になるということと関係しています。
21年度の大学入学共通テストには過去問がありません。また、昨年の秋~冬には「入試改革を考える会」(代表:大内裕和)や世論の批判を受けて英語民間試験の活用、国語・数学の記述式問題の実施見送りが決まりました。
これだけ大きな変更を行ったのですから、本来なら変更後の試験形式でプレテストを実施して共通試験としての適性を検証すべきですが、行われませんでした。そのため21年度の大学入学共通テストの出題傾向を事前に把握することは、とても困難となりました。第2日程で受験すれば、第1日程の問題を見ることができますから、事前に問題形式を含めた出題傾向を把握することができます。その点では、第2日程での受験が有利であることは間違いないでしょう。ですから第1日程で受験するのが有利か不利か、第2日程で受験するほうが有利か不利かは現時点では分かりません。
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しかし、皆さんおかしいと思いませんか? そもそも「第1日程のほうが有利」とか、「第2日程のほうが有利」という議論が出てくること自体が、今回の大学入学共通テストが制度設計の段階から、入試としての公平性・公正性を欠いていることを示しています。大学入学共通テストを第1日程と第2日程の2回実施するということは、2つの試験問題がレベルとして「同等なテスト」であることが必要とされます。しかし、果たしてそんなことが可能でしょうか?
これまで実施してきた大学入試センター試験においても、本試験と追試験の平均点、年ごとの平均点、あるいは各科目間の平均点に大きな差がつかないように、作問者は大変な努力をしてきたと思われます。しかし作問者がどれだけ気を付けても、問題の難易度に差が生まれてしまうことは、年によって各科目の平均点が大きく上下したり、科目間の得点調整が必要となったりした、これまでの歴史を振り返れば明らかでしょう。
まして、今回の大学入学共通テストは、大学入試センター試験とは異なる新たな問題形式で行われます。これまでに実施実績のない、新たな形式で試験を実施するのですから、問題の質をコントロールすることは一段と困難です。第1日程と第2日程の試験を難易度の差のない「同等なテスト」にすることは、相当に難しいと思われます。
さらに、特例追試験の場合には大学入学共通テストとは異なる出題形式・内容の大学入試センター試験なのですから、「同等なテスト」とすることは完全に不可能です。
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今年の高校3年生はこの「同等なテスト」ではない、つまり「共通ではない」共通テストを受験することを強いられようとしています。第1日程と第2日程のいずれかを選ぶ制度となっていますが、どちらが有利か事前には分かりません。試験が終了した後に比較されることになると思われます。