どのような性の人を好きになるか(性的指向 Sexual Orientation)と、自分の性をどう認識しているのか(性自認 Gender Identity)という、性に関わる「状態」を表す言葉の頭文字のこと。性のあり方は実に多様である。性的指向と一言で言うが、同性か異性か、だけでなく、両方の性に向かう場合もある。どのような性に対しても恋愛感情が向かないという場合もある。性自認も、性別に違和があることもあれば、ないこともある。性的指向と性自認がいずれも揺らぐという場合もあるし、決めたくないという場合や、定義づけ自体があまり意味を持たないこともある。
LGBTという用語と意味を混同されることがあるが、LGBは性的指向、Tは性自認に関わるもので、社会の中で性的にマイノリティの立場に置かれてきた/いる者を表す言葉の頭文字。マイノリティとは単に少数者という意味だけではなく、生きづらさを抱えていることを意味して用いられることが多い。Lはレズビアン(女性同性愛者)、Gはゲイ(男性同性愛者) Bはバイセクシュアル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(性別違和のある者)をいう。LGBTは権利獲得のための運動の中で、連帯を表す言葉として使われてきた。一方でLGBTという言葉を使う時に、LGBTというマイノリティと、異性愛者(ヘテロセクシュアル)で性自認に違和のない(シスジェンダー)のマジョリティとの間に線引きをして、「LGBTの人たちの生きづらさ」を解消しようというような、パターナリスティック(決めつけ、上から目線での介入)な捉え方になりがちという課題もあった。
人間がどう生きるかという時に、性は深く関わる。性の健康が保障されることは、全ての人間が保障されるべき基本的人権である。「SOGI」という用語が登場したのは、誰もが性の当事者であり、そのあり方がそもそも多様であるということを意識しているためだと言える。
ただ活動家や研究者、団体等によって使われ方は様々である。LGBTを「主体」を指す用語として、SOGIを「状態」を指す用語として使用したり、LGBTという用語の発展形としてSOGIを使用していることもある。文部科学省が2016年に出した通知「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」の中でも、SOGIが紹介されている。
大切にしたいのは、どのような用語を使うかという選択には、その人が性をどのように捉えているのかというスタンスが表れているということである。この用語を使用したから「新しい」「正しい」「理解がある」などと考えるのではなく、どの用語も、長年にわたる人権擁護の運動が切り開いた地平から生み出されたものであることを知った上で、自分のスタンスに合う言葉を選び(なければ作り)、人権としての性の捉え方を確かなものにしていくことが重要だ。
まだまだこの社会にはLGBTやSOGIに関わる差別や偏見やハラスメントがある。近年、「SOGIハラ」という言葉も登場している。LGBT法連合会や国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)などがつくる「なくそう!SOGIハラ」実行委員会は、それを以下のように定義する。
「好きになる人の性別(性的指向)や自分がどの性別かという認識(性自認)に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けること。また、望まない性別での学校生活・職場での強制異動、採用拒否や解雇など、差別を受けて社会生活上の不利益を被ること。 それらの悲惨なハラスメント・出来事全般」
20年1月15日に公布されたパワハラ防止指針(厚生労働省告示)では、パワハラの類型の一つである「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」の該当例として「性的指向・性自認」についての個人情報の暴露を挙げている。国際労働機関(ILO)の「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」(19年6月採択)を日本が批准するのはまだ先になりそうだが、確実な一歩である。こうした取り組みをより深化させ、発展させていくことが求められている。