自衛隊や米軍基地、海上保安庁の施設などを重要施設とし、国境離島等とあわせて、これらの機能を阻害する行為(機能阻害行為)を防止することを目的に、住民の土地等の利用実態を調査する法律のこと。正式名称は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律」で、2021年6月に成立した。「土地規制法」「重要土地等調査・規制法」などとも略される。防衛施設周辺の土地が外国資本に購入されていることなどが安全保障上のリスクになるとしてつくられたものだが、外国資本の購入で施設運用に支障をきたしたという事例は確認されておらず、そもそも立法事実がないという批判がある。
重要土地利用規制法は、自衛隊や米軍基地、海上保安庁の施設、原子力発電所など重要インフラ施設のうち、政府が安全保障上重要だとする施設の周囲おおむね1キロ、また国境に関係する離島を「注視区域」に指定し、区域内の土地や建物の所有者などの利用実態を調査することを定めている。土地利用者に国に対する報告を求め、応じない場合、懲役や罰金などを科す規定もあり、とくに重要とする施設周辺や離島は「特別注視区域」に指定し、調査に加え、一定面積以上の土地や建物を売買する際は、事前の届け出を義務づけている。機能阻害行為があったと判断されれば、それを中止するよう国が勧告し、従わない場合、罰則を伴う命令を出す。ただし、土地の売買など取引自体を許可制などの形で制限する規定はない。
土地等の所有者のみならず、賃借人やその他の関係者も調査の対象となる。「行為」の有無を確認することで、調査の内容は広範なものとなるおそれがあり、プライバシーや思想・信条の自由の侵害が懸念される。調査手法も条文上に規定がなく、調査期間についても、たとえば売買時などにチェックするという仕組みではなく、いつでも調査を行うことができる。
そもそも、何が機能阻害行為に該当するかが明確ではない。政府は、閣議決定を経て示される基本方針において例示するとしているが、あくまでも例示にとどまるため、土地利用者が、規制対象となる行為か否かの判断を事前に行なうことは難しい。
また、この法律の条文は、基本的に「内閣総理大臣」を主語として、「できる」という述語で成り立っているが、「等」や「その他」という幅を持たせる表現が多く、一方で市民の権利について保障する規定がない。内閣総理大臣の判断を覆す手段もない。「機能」の妨害という抽象的な規定で罰則が設けられているのも問題がある。
他にも、①対象施設が政令で定められ国会が関与しないこと、②地方自治体が内閣総理大臣の下請け機関化されてしまうこと、③防衛に関わる土地の収用・利用を認めない土地収用法の原則がないがしろにされかねないこと、④そもそも外国資本の購入を「安全保障上のリスク」とすること自体、国籍などの「属性」に着目する発想であり、個人主義に立脚する日本国憲法と相容れないこと――などの問題がある。