アメリカ・カリフォルニア州の投資家で慈善家であるニコラス・バーグルエンを所長とするバーグルエン研究所が2016年に創設した賞。急速に変化する世界において「人間の自己理解の形成と進歩」に貢献した思想家に与えられる「哲学のノーベル賞」を目指している。国際的な作家・思想家で構成された審査員が選考し、毎年発表を行う。受賞者には賞金100万米ドルが授与される。
16年の第1回は、「共同体主義」と「多文化主義」を唱え、異なる知的伝統間の理解を深めたとしてカナダの哲学者チャールズ・マーグレイヴ・テイラーが受賞。17年は「public discourse」(公的な議論・対話)という言葉を広めたとしてイギリスを代表するカント主義哲学者であるオノラ・オニールが受賞。18年は正義論やフェミニズムなど広範な領域で議論を展開してきたアメリカの哲学者マーサ・ヌスバウムが道徳的・政治的生活における脆弱性や恐怖についての探求が評価されて受賞。19年はアメリカ最高裁史上2人目の女性判事で、女性や少数者の権利のために貢献したルース・ベイダー・ギンズバーグ元連邦最高裁判事が受賞。20年はアメリカの医師・医療人類学者のポール・ファーマーが世界的な公衆衛生の公平性を推進したとして受賞。21年はオーストラリアの哲学者ピーター・シンガーが動物の権利、功利主義、世界的な貧困撲滅のための倫理的枠組みを提唱したとして受賞した。
2022年12月8日、バーグルエン研究所は22年のバーグルエン賞を日本の哲学者である柄谷行人に贈ることを発表した。授賞理由は、現代哲学、哲学史、政治思想に対する独創的な貢献。グローバル資本主義と民主主義国家が危機的な状況にある現代において、柄谷の思想が重要な意味を持つと評価した。
柄谷は1941年、兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒。同大学院英文科修士課程修了。世界史を生産様式ではなく交換様式の観点から根本的にとらえ直した『世界史の構造』などの大胆な思索によって、日本のみならず、アジア各国を中心に国際的に評価されている。その他の主な著作に、『意味という病』、『マルクスその可能性の中心』、『日本近代文学の起源』『探究Ⅰ』『トランスクリティーク』などがある。