マッチングアプリやSNSで別の外国人に成りすまし、経済的に優位な先進国の人間に恋愛感情を抱かせ、金銭を騙し取る詐欺のことである。海外では「Romance scam」と報じられているが、国境をまたいだサイバー犯罪であることから、日本では「国際ロマンス詐欺」とも呼ばれている。
犯人はインスタグラムやフェイスブックなどから容姿端麗な外国人の写真を無断でプロフィールに使い、「実業家」、「経営者」、「医師」、「軍人」、「金融関係」などの職業を装って不特定多数に主に英語でメッセージを送る。反応を示した相手をターゲットに定め、言葉巧みに警戒心を解きほぐし信用させていく。
親しくなるにつれ、相手のことを「ハニー」などと呼び、「I love you」という直接的な表現はもちろんのこと、「あなたはまるで輝く鎧を着た騎士のよう」、「今日のあなたはとても美しい。まるで天使が地球に舞い降りてきたみたい」、「あなたに100万回の笑顔を送ります」といった台詞も挨拶がわりに送る。日本人同士ではあまり馴染みのないそうした愛情表現や「お母さん(子ども)は元気?」といった家族への気遣いが、やがて被害者の心を鷲掴みにする。そして「日本で一緒に生活をしたい。荷物を送るから搬送料(通関手数料)を振り込んで欲しい」などと持ちかけ、金を引き出すのである。「iTunesカード」等プリペイドカードの購入、暗号資産(仮想通貨)やFXへの投資勧誘も最近では多い手口だ。
消費者トラブルなどの被害相談を受ける国民生活センターによると、2022年度、国際ロマンス詐欺を含む「マッチングアプリ等をきっかけとする投資トラブル」に関する相談件数は941件で、2019年度の72件から10倍以上に急増している。警察や弁護士に直接相談するケースも多いため、実数はさらに多いとみられる。被害者は男女比では男性が6割を占め、年齢層は10代から70歳以上と幅広いが、その中心は中高年層だ。被害額は数百万から数千万円、多い時で1億円を超える場合もある。被害者は既婚、未婚を問わない。共通しているのは、孤独感や寂しさからくる「愛されたい」欲求があることだ。
一方の犯人は、西アフリカのナイジェリアやガーナなどに集中している実態が明らかになっている。特にガーナを拠点に近年、複数の日本人とガーナ人による組織的な国際ロマンス詐欺が頻発していた。その主犯格の1人とみられる森川光容疑者(逮捕当時58歳)は大阪府警から国際指名手配され、2022年8月、滞在先のガーナで身柄を拘束された。日本に強制送還された後は、詐欺罪などで逮捕・起訴された。
ナイジェリアでは、ロマンス詐欺を含む国際的なサイバー犯罪が以前から深刻な社会問題となっており、犯人たちは「ヤフーボーイ(Yahoo Boy)」と呼ばれている。その起源は1980年代までさかのぼる。当時は「ナイジェリアからの手紙」(ナイジェリアの刑法419条に抵触する犯罪であることから「419事件」とも呼ばれる)と言われる国際的な詐欺が横行しており、政府高官や王族を名乗る人物が「秘密資金を送金するために口座を貸して欲しい」という内容の手紙やFAXを国外の企業に送り付けるという手口で、多額の金を騙し取っていた。インターネットの普及に伴って、手紙がメールに変わり、犯人たちは「ヤフーメール」を使って詐欺を仕掛けるようになったことから「ヤフーボーイ」という呼称が定着した。
ヤフーボーイの大半は、18歳~30歳の若者たちである。一般の大学生も多く、彼らの罪の意識は薄い。その背景には、貧困や高失業率、汚職などといったナイジェリア特有の事情がある。
格差の広がる世界の国々が、ネットを介して瞬時につながる社会。その負の側面が、ロマンス詐欺のようなサイバー犯罪を生み出している。
犯人たちは今や、西アフリカにとどまらず、カンボジアや中国、タイなどアジア域内でも暗躍し始め、ロマンス詐欺の「グローバル化」が進んでいる。その摘発には、各国の捜査当局による連携が今まで以上に求められる。