アメリカ合衆国の中西部から北東部、五大湖周辺から東海岸に延びる一帯で、衰退が著しい工業地帯のこと。「ラスト」は「さびついた」という意味で、ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、オハイオ州、インディアナ州などに広がる。近年、大統領選挙の行方を左右する地域として注目されている。
この地域は1970年頃まで、鉄鋼や石炭、自動車などの製造業が盛んであった。自動車のゼネラルモーターズ(GM)や鉄鋼のUSスチールといった巨大企業がもたらす安定した賃金によって、白人労働者を中心に分厚い中間層が形成されていた。しかしその後、メーカー各社は安い労働力を求めて生産拠点を海外に移転し、工場は次々に閉鎖されていった。それにより地域経済は空洞化し、中間層の生活水準は徐々に低下する。自動車産業で知られたミシガン州の大都市デトロイトなどは、1950年代に比べて人口が6割も減少した。生活の困窮に伴い、虐待やアルコール依存症などの社会問題も広がる。
地域の変化は、政治的な変化につながる。大規模工場を擁する製造業が盛んだった時代は、この地域は全米自動車労働組合(UAW)などの労働組合が強く、民主党の安定した支持基盤となっていた。しかし産業の空洞化によって労組が弱体化すると、大統領選のたびに民主党と共和党が競り合う激戦州(スイングステート)となった。2016年の大統領選でトランプ候補が勝利したのは、「アメリカを再び偉大に(MAKE AMERICA GREAT AGAIN)」という呼びかけによって、生活の不安を抱えるこの地域の白人労働者の票を獲得したことが大きいとされる。