また、子宮筋腫や子宮腺筋症は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が高い時期に悪化しやすいことがわかっています。エストロゲンの分泌量を抑えたり、月経を止めたりすると改善されることから、これらの病気にはエストロゲンがなんらかの形で関わっていると考えられます。また、婦人科がんの中でも、子宮体がんは、妊娠・出産回数が少なく月経回数が多い人がなりやすいと言われています。といっても、妊娠・出産はライフプランに関わることです。病気にならないために妊娠回数を増やすという人はいないでしょう。
【図】子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの人口10万人対の罹患率(1975~2015年)
(人口10万人対の罹患率とは、統計上、10万人のうち当該の疾病に罹患している件数を示す)
低用量ピルは、月経が関連する病気のリスクを下げる選択肢のひとつです。低用量ピルを服用することにより、月経の回数や量を減らせますし、月経痛など月経にまつわる症状を改善する他、卵巣がん、子宮体がんのリスクを減らすことができると言われています。
ただ、海外の多くの国と異なり、日本では低用量ピルの価格が高く、ジェネリックでも1カ月1000~2000円程度はかかります。費用がハードルとなって、自分の健康を守れない女性も少なくないと考えられ、女性のヘルスケア向上のためにも、解決しなければならない問題だと思います。
不妊症と婦人科系の病気の関係
子宮内膜症、子宮筋腫、月経不順(排卵障害)、子宮内膜ポリープなどの婦人科系の病気は、不妊症の原因になります。ただ、これらの病気が増えているから不妊症が増えているとは言い切れません。妊娠・出産を希望し、“妊活”を始める年齢が男女ともに高くなることで、年齢が原因で妊娠しにくくなり、不妊症の定義(※1)にあてはまる人が増え、検査してみた結果、病気が判明する、という側面もあります。
妊娠するために、子宮内膜症や子宮筋腫を手術することが必要になる場合があり、治療に半年~1年、またはそれ以上かかることもあります。スムーズに妊活を始めるために、できれば妊活前に一度婦人科でチェックを受け、早めに病気を治療しておくことをお勧めします。
子宮頸がんワクチンについて知っておきたいこと
子宮頸がんの増加は、副反応への懸念から、日本で子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)が普及していないことが影響していると思われます。現在、海外も含めて多くのデータが揃ってきており、日本で今、公費で受けられる2価・4価のHPVワクチンは、子宮頸がんの60~70%を予防できると考えられています。厚生労働省の専門分科会がワクチン接種後の重篤な症状について調査した結果、ワクチン接種との直接的な因果関係は無いと考えられています。
因果関係はないと言われても、やはり心配だという方もいるでしょう。実際のところ、HPVワクチンに限らず、感受性が非常に高い思春期では、ワクチン接種による痛みなどのストレスが、なんらかの症状を引き起こすこともないわけではありません。たとえば、HPVワクチンは新型コロナウイルス感染症ワクチンと同じく筋肉注射なので、打った後2~3日、痛みや熱が出ることがあります。ほとんどは自然に治まりますが、強いストレスがあるなど、そのときの心身の状態によっては、体調不良が続くこともあると考えられています。そうしたことを避けるには、たとえば受験や、部活の大きな大会を控えている時期を外してワクチン接種するというのもひとつの方法です。接種後にしっかり休める学校の長期休暇の間に接種するなどの配慮も有効でしょう。
また、思春期ならではの心身ともに多感な時期を過ぎたタイミングで接種するという方法もあります。HPVワクチンが10代前半での接種が推奨されているのには理由があります。子宮頸がんは性交渉によりHPVウイルスに感染することで発症するため、初回の性交渉の前に接種することで最も高い予防効果が得られるのです。ただ、少し効果は下がるものの、性交渉の経験後でも、26歳頃までに打てばある程度の効果はあるとも言われています。ちなみに、日本ではHPVワクチンは小学6年生から高校1年生相当の女子が公費接種の対象ですが、その間に打てなかった人も支援が受けられることになりました。2022年度から3年間、1997~2005年生まれ(17~25歳)の女性は無料でHPVワクチンの接種を受けられますので、こうした機会をぜひ活用していただきたいと思います。
産婦人科医としては、子宮頸がん予防のためにできればワクチンを打っていただきたいと考えます。ただし、日本でワクチン接種は義務ではありませんから、私たち医師が今ある情報を提供し、最終的にはご本人とご家族で決めていただくということになります。まずは、打つか打たないかも含めて、かかりつけの医師や婦人科で相談してください。
婦人科受診の目安となる症状
日常生活を送るうえで、女性の健康のバロメーターとして非常に重要となるのが月経の状態です。アプリや日記などに自分の月経周期やそのときの体調などを記録しておくことをお勧めします。そして、もし以下のような症状がある、あるいは症状がどんどん悪くなっている場合は、できるだけ早めに婦人科を受診していただければと思います。日本人女性は我慢強い方が多いようなのですが、病気の進行を防ぐためにも我慢のしすぎは禁物です。
(※1)
不妊症の定義は「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(約1年間)妊娠しない状態」とされています。「一定期間」については男女の年齢や状態によっても変化すると言われています。

(※2)
消退出血とは女性ホルモンが低下することによって、子宮内膜が剥がれて起こる出血のことで、通常の月経や低用量ピルの休薬期間の出血を言います。
