女性のからだに特有の病気のうち、婦人科が専門とする「婦人科系疾患」は、主に女性生殖器、つまり卵巣、子宮、腟などに関する疾患を指す。月経トラブルも含めた婦人科系疾患の治療は、思春期から老年期に至るまでQOL(Quality of Life、生活の質)の向上と深く結びついているが、婦人科で相談するのは恥ずかしいと我慢を重ねてしまう女性も多い。中には悪化すると不妊症などにつながる病気もあり、早期発見が大切だ。主な婦人科系の病気にはどのようなものがあるのか、それらの原因や受診の目安など、知っておきたい基礎知識を、淀川キリスト教病院産婦人科の柴田綾子医師にうかがった。
ライフステージで変化する女性の健康
女性の健康は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量に大きく影響を受けています。個人差もあるので厳密に年齢で区切ることは難しいのですが、エストロゲンの分泌量が増えていく「思春期」、エストロゲンの分泌が盛んな「性成熟期」、エストロゲンの分泌量が急激に減少する「更年期」、エストロゲンの分泌が乏しくなる「老年期」の4つのライフステージに分類することができ、ステージによってかかりやすい病気も変化します。
それぞれのステージで見ていくと、思春期は月経不順、過多月経、月経前症候群、また症状としては帯下(たいげ)異常(おりものの異常)や不正出血の訴えが多いです。性成熟期に多い病気としては、月経困難症、子宮内膜症、子宮筋腫、更年期では更年期障害、尿失禁、頻尿などが挙げられます。老年期に入ると、萎縮性腟(ちつ)炎という、エストロゲンの減少によって腟の粘膜が乾燥して起こる症状が見られるようになります。ほかにも、やはりエストロゲンの減少が影響を与える骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や生活習慣病(動脈硬化、脂質異常症など)にも注意が必要となる年代です。
【月経不順などについては「性知識イミダス:月経(生理)のお悩みQ&A」を、エストロゲンの減少が及ぼす影響については「性知識イミダス:性ホルモンについて知ろう(基礎知識編)」をご覧ください】
月経に関連する病気が増えている
最近増えているのは、子宮内膜症、月経困難症、子宮筋腫、子宮腺筋症、婦人科がん(子宮頸〈けい〉がん、卵巣がん、子宮体〈たい〉がん)です。食生活の西洋化といったライフスタイルの変化がこれらの病気にかかるリスクを高めるとされている他、検査を気軽に受けられるようになったことや、一般の方が病気についての知識を持つようになったことで、病気を発見する機会が増えているという側面もあるでしょう。
しかし最も影響が大きいのは、出産回数の減少などで現代の女性の月経回数が昔より増えていることだと思われます。なぜなら、これらの病気の多くが月経に関連して起こるものだからです。
たとえば、子宮内膜症はそのひとつです。子宮内膜症では、子宮内膜組織が本来あるべき子宮の内側以外の場所に発生してしまいます。これらの組織は、子宮内膜と同じく月経周期に合わせて増殖・剥離し、出血を起こしますが、月経血と違って排出する出口がありません。出血が繰り返されることで、たまった血液が周囲の組織と癒着するなど、病気を悪化させてしまうのです。
(※1)
不妊症の定義は「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(約1年間)妊娠しない状態」とされています。「一定期間」については男女の年齢や状態によっても変化すると言われています。
(※2)
消退出血とは女性ホルモンが低下することによって、子宮内膜が剥がれて起こる出血のことで、通常の月経や低用量ピルの休薬期間の出血を言います。