「ケジラミが寄生するのは陰毛だけではなく、陰毛、肛門周囲の毛、脇毛、胸毛、すね毛、ヒゲ、眉毛、まつげなどにも寄生すると言われます。ですから、ケジラミが寄生した体毛を剃ると、別の体毛へと移動、拡散してしまうのです。ケジラミの治療では剃毛はせず、一カ所に集めた状態で一網打尽にするのが効果的です」(尾上先生)
尖圭(せんけい)コンジローマ
特徴:ヒト・パピローマウイルス(HPV)の性器への感染によって性器や肛門周辺にイボができる性感染症。イボの中にウイルスが生息し、性的接触によって体内に侵入する。現在180種類以上が確認されているHPVの内、尖圭コンジローマの原因となるのはほとんど6型と11型(子宮頸がんの原因となるHPVは16型、18型)。再発率が高く、3カ月以内に15~30%が再発すると言われる。
年間新規感染者数:6263件(2019年。定点報告)
症状:感染機会から数週間~3カ月の潜伏期間を経て、外陰部(男性の場合、亀頭、陰嚢〈いんのう〉など。女性の場合、大小陰唇、会陰〈えいん〉、腟前庭)や肛門周辺、女性の場合は腟壁や子宮腟部などに乳頭状の先の尖った小さなイボが多数発生し、成長してカリフラワーや鶏のトサカのような形になる。痛みやかゆみはないケースが多い。
治療方法:塗り薬、外科的治療(凍結療法、レーザー焼灼術、切除など)。
「性器にできたブツブツは、性感染症とは限らず、単なる生理的な変化の場合もあります。男性の亀頭冠に沿ってできる真珠様小丘疹(しんじゅようしょうきゅうしん)は、日本人男性の40%に見られ、女性の場合は小陰唇にできることもあります。また、女性の腟前庭にできる小さなブツブツは腟前庭乳頭症と呼ばれ、日本人女性の20~30%で見られます。いずれも専門家でないと尖圭コンジローマとの見分けは難しく、正確な診断には組織検査が必要となります」(尾上先生)
腟トリコモナス症
特徴:目に見えない微細な腟トリコモナス原虫が性器に侵入することによって炎症が起こり、男性より女性に強く症状が出る他、妊娠中に感染すると早産になることもある。主に性行為で感染するが、下着やタオル、浴槽などを通じて感染することもある。近年は減少傾向にある性感染症。
症状:1~3週間の潜伏期間を経て発症する。女性の場合、悪臭が強く、黄緑色で泡状のおりものが増加し、外陰部、腟の強いかゆみ、セックスや排尿時の痛みがあるが、約30%で症状が見られない。男性の場合は、ほとんどが無症状で、尿道炎による排尿時の痛み、頻尿、前立腺炎を起こすこともある。
治療方法:腟トリコモナス剤(経口薬)を10日間服用する。妊婦の場合腟錠を使用する。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症/エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)
特徴:HIV(Human Immunodeficiency Virus)は血液、精液、腟分泌液、母乳と言った体液に多く存在し、主な感染経路は、性行為による感染、血液による感染、母子感染である。涙、唾液、尿、便などからの感染はなく、感染力も他の性感染症に比べると弱い。HIVが体内に入ると、数年~数十年かけて血液中の免疫細胞に感染し、体の免疫力を低下させる。その結果、健康体であれば免疫力で抑えられるウイルスや細菌などが原因の病気(日和見感染症)を発症する(エイズ)。
梅毒や淋病などの性感染症はエイズの罹患リスクを高める。日本での感染者は男性が多いが、世界的には女性のHIV感染者も増えている。
年間新規感染者数:1095件(2020年。うちHIV感染者750件、エイズ患者345件)
症状:HIVに感染して2~6週頃(初感染期)、50~90%の感染者に発熱、のどの痛み、筋肉痛や頭痛などの症状が見られる。
初感染期の症状が治まった後、無症候期(数年から数十年)を経てエイズ期に至る。カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、HIV消耗性症候群(全身衰弱)など23の代表的な疾患のいずれかを発症した時点で、エイズと診断される。これら23の疾患の複数を発症することもある。
治療方法:現在は多くの抗HIV薬が使用可能で、副作用も少ない。HIVウイルスを体内から消滅させることはできないが、エイズ発症前に治療を始めれば、ウイルスの増殖を検出限界以下にまで抑えることで、エイズ発症を5%以下に抑え、他人への感染も大幅に防ぐことができる。エイズ発症後も治療方法は変わらない。現在、エイズによる死亡率は10~20%となっている。
「HIVに感染しても、初期はインフルエンザと似たような症状であるために気づきにくく、検査を受けなければ感染しているかどうかわかりません。検査は通常、感染機会から2カ月後から受けられ、中には2週間後からできる検査もあります。エイズ発症前に早期発見・早期治療をすることで発症や重症化を抑え、通常の生活を送り、天寿を全うすることができます」(尾上先生)
A型肝炎
定点報告
※感染症法により、地方自治体が定める国内約1000カ所の医療機関には、感染例を保健所に報告することが義務づけられている。
全数報告
※感染症法により、全感染例を保健所に報告することが医師に義務づけられている。
AIDS
Acquired Immunodeficiency Syndrome