「性感染症なんて自分には関係ない」「私は大丈夫」と思っている人もいるかもしれない。しかし、性感染症には、人と人とが性的に触れ合う中で、誰でもかかる可能性がある。ただし、感染しても無症状、あるいは軽症ですむことが多いため、気づかないうちに症状が進んで不妊の原因や母子感染を引き起こしたり、複数の性感染症にかかって治療が難しくなったり、他の人に感染を広げてしまったりするケースも少なくない。必ずしも「下半身」の病気というわけではなく、場合によっては肝炎や中耳炎などの症状が出ることもあるため、性感染症だと自覚するのが難しい。また、最近では、治療薬に耐性を持つ性感染症の病原体も増えてきており、早期の発見と治療がますます重要になっている。性感染症を正しく理解するために必要なことは何か、性感染症専門医の尾上泰彦先生にうかがった。
*主な性感染症の各疾患について、感染経路や症状、治療法などの詳細は、「性知識イミダス:性感染症の基礎知識」をご覧ください。
性感染症とは何か
性感染症は性行為によって感染する病気の総称で、原因となる病原体は、ウイルス、細菌、原虫など30種類以上あることがわかっています。これらの病原体を含む分泌液(精液、腟分泌液など)や唾液、血液、粘膜や皮膚が性器、口、目の粘膜や皮膚にできた傷に触れることで感染します。性行為をしなければ日常生活ではほぼ感染せず、空気感染や飛沫感染もありません。
「性行為」には、腟性交だけではなく、オーラルセックス(口腔性交。クンニリングス〈舌による女性器への接触〉やフェラチオ〈舌、口腔による男性器への接触〉、リミング〈舌による肛門への接触〉など)、アナルセックス(肛門性交)も含まれます。キスやスキンシップでも感染することがありますし、精液や腟分泌液がついた手指で目に触れること、顔に射精した精液が目に入ることで結膜感染したり、便中にも病原体が含まれていたりするなど、さまざまな感染の機会があります。特にオーラルセックスは風俗産業等によって日常化しており、「口腔・咽頭は性感染症の温床」になっています。けっして、「口だけだから安全」ではありません。