「コロナ禍で問われる性・生殖」(前編)~避妊・中絶・ピル……『産まない選択』の危機的状況が浮き彫りに」からのつづき
前編にあるように、日本における「産まない選択」のハードルの高さを浮き彫りにしたコロナ禍だが、「産む選択」についても、現在、様々な制限が課せられている。今のところ、妊娠中に新型コロナウイルスに感染する率は妊娠していない人と変わらず、重症化率も一般と同じかむしろ低いと報告されているが、新型コロナウイルスの流行が始まってから1年も経っていないため、妊婦や胎児が感染したという症例自体が少なく、妊娠初期に及ぼす影響などについてはまだ明らかになっていない。
また妊婦が肺炎にかかった場合は重症化しやすい上、新型コロナウイルス感染症の治療で試行されている薬には妊婦が使えないものもある。感染が急速に拡大する中、ヨーロッパ生殖医学会、アメリカ生殖医学会など海外の学術団体は「生殖は欠かすことのできない人権のひとつ」としながらも、リスクを避けるために現段階では妊娠を見合わせるよう勧告、日本生殖医学会も、可能であれば不妊治療延期を考慮するよう呼びかけた。
新型コロナウイルス流行の先行きが見えない中、「産む選択」のリスクがあるとしたら、それはどのようなものか、そして、そのリスクを減らすために何ができるのだろうか。
〈この記事の内容紹介〉
・コロナ禍において、妊娠中に気をつけるべきことは
・妊娠中に感染したら……?
・感染者が出産するときは帝王切開するべきなのか
・かかりつけの病院で感染者が出たら?
・県境を越えて「里帰り出産」するには2週間待機
・働く妊婦はコロナを理由に休むことができる
・妊婦健診が受けられなくても不安になりすぎないで
・電話やオンライン診療、助産師によるサポートもある
・健診や出産に付き添えなくても、ビデオ通話がある!
・不妊治療を「待てない」思いは尊重されるべき
・コロナ後の社会に活かせること
コロナ禍において、妊娠中に気をつけるべきことは
「出産は何よりも『不要不急』でないことです。生まれるとなったら、最優先でなんとかしなければいけないわけですから」と話すのは、性科学者・産婦人科医の早乙女智子医師だ。コロナ禍をきっかけに、「乙女チャンネル 性科学の小部屋」というYou Tubeチャンネルを開設し、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)をわかりやすく解説する試みを始めている。
「産まない選択」への支援の薄さとは対照的に、「産む選択」をする側に向けては、比較的早い段階で行政や専門家による動きが見られた。2020年4月1日、厚生労働省は「妊婦の方々へ」というリーフレットを発表。感染予防のガイドラインや感染が疑われる場合の対処法、仕事を持つ妊婦への支援などについて情報発信を行うと共に、「厚生労働省は、省をあげて、妊婦の方々の安心・安全の確保に全力を尽くしてまいります」というメッセージを打ち出している。
また、4月7日に日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会は日本産婦人科感染症学会と連携して作成した「妊婦の皆さまへ」と題した文書を公表。妊娠中の新型コロナウイルス感染リスクや感染予防の観点から妊婦健診や分娩が制限される可能性があることなどを伝え、その後も状況に応じてアップデートされた情報を発信中だ。