もし配給を出すと言われても、貧弱な配給のために今さら職場に勤めようという人はいませんよ」(両江道の30代の女性)
「今の朝鮮は、農民たちこそ厳しい暮らしで飢える人もいますが、都市の人間は配給がない中でも商売をやって、なんとか自力で食べられるようになったんです。政府には、頼むから商売の邪魔をするな、統制するなと言いたいです」(咸鏡北道の男性、党員)
金正恩政権が核・ミサイル実験を繰り返していることについて、北朝鮮の住民にしばしば感想や意見を訊くのだが、答えはいたって冷淡、無関心だ。
「今や核大国になったと政府は誇らしげに宣伝しているけれど、核爆弾で暮らしが良くなるわけでもなく勝手にすればいいという感じ。核兵器やミサイルが周りで話題になることもない」(両江道の40代の女性)
多くがこんな調子である。
経済の仕組みが変わると、人の意識はこうも変わるものか。取材者である私こそが、北朝鮮の社会と意識の変化についていけていないな、と感じることが多い。北朝鮮の人々が覚醒の最中にあると感動を覚えることある。もどかしいのは、そんな北朝鮮の人々が、世界の人々にとって依然として不可視な存在であることだ。せめて、隣国の民が「洗脳された」「ロボット」ではないことくらいは伝えたいと思っている。