記者が質問できなければ国が滅ぶ
9年間の経験から、チェ・スンホさんは今、公共放送の社長を政権が任命するのではなく、国民が直接選べる制度に変えるべきではないかと考えている。
「民主化運動の流れを汲むリベラル派の政治家たちは言論の自由の大切さを身に染みて学んでいますが、保守派の政治家たちには、かつて独裁政権時代に言論を統制したことへの反省がありません。そのため、権力の座に復帰するとその時代のDNAがすぐに甦る。だとすれば、再び強圧的な政権が誕生しても大丈夫なように公共放送の社長を国民が直接選ぶ制度を作るべきだと思います」
映画『共犯者たち』は日本の一般の劇場での公開も予定されている。この映画を通じて日本の観客に伝えたいことを聞いてみた。
「メディアがしっかりしていなければ、市民の自由もなくなってしまいます。言論の自由こそが、全ての自由をつくる最も重要な自由なのです。韓国の事例を通じてそのことを考えていただき、日本の市民の助けになれば幸いです」
では、その日本のメディア状況は今、どうなっているだろうか。NHKはどうか。
NHKはKBSと同様、受信料で支えられる公共放送であり、政府の宣伝を行う国営放送ではない。NHK会長は、国会の同意の下で首相によって任命される12人の経営委員会によって選ばれる。
だが第二次安倍政権が成立した翌年の13年末、NHK経営委員会に安倍首相と思想的に近い百田尚樹氏や長谷川三千子氏が送り込まれる(百田氏は15年に退任)。その経営委員会は14年1月に籾井勝人氏を会長に選出したのだが、彼が就任会見で「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と言い放ったことは、記憶に新しい(籾井氏は17年に退任)。その後も、キャスターの降板や時事番組の改廃などのたびに、官邸の介入や忖度がささやかれた。ニュース解説に官邸の代理人のような政治部記者が登場して安倍首相の国際的指導力を称えるといった場面も増えている。そもそも「官邸」という言葉が独特の響きを持つようになったのも、過去にはなかったことだ。
もちろん韓国と日本では国情は大きく違う。だがメディアがすでに権力の「共犯者」に転落しているのかもしれない時代を、私たちもまた生きている。私たちも、隣国の市民たちのように、共犯者になるまいとするメディアの現場の担い手たちを応援するべきなのだろう。
『共犯者たち』の中でチェ・スンホさんが李明博大統領に向かって叫ぶ「記者が質問できなければ国が滅ぶのです!」という言葉は、国境を越えた警鐘として私たちの胸にも響くはずだ。