経済成長率についても、同じような議論がされることがある。「GDPギャップ」の問題だ。経済が達成できるカタログ上の成長率である「潜在成長率」と実際の成長率が乖離(かいり)し、ギャップが生まれてしまうのだ。
日本経済を巨大な旅客機と考えよう。旅客機は「消費」「設備投資」「輸出入」「政府支出」の四つのエンジンで飛行し、その高度がGDP(国内総生産)、上昇角度が「経済成長率」となる。
潜在成長率とは、生産活動に必要な工場や機械設備などの資本や労働力などの「生産要素」に、これらを実際の生産に結びつけるための「生産性」や「技術進歩」などを加味して算出される、達成可能な経済成長率のことだ。
潜在成長率は理論上の数字、つまり「カタログ上の経済成長率」であり、実際の経済成長率とは必ずしも一致しない。ここで生じたズレが、GDPギャップなのである。
GDPギャップが生じる理由の一つは、経済の「供給」と「需要」が必ずしも一致しないことだ。潜在成長率は、経済の供給能力を推計したもの。しかし、生産されたものが売れなければ、実際の経済成長率は増加しない。つまり、「供給」に見合うだけの「需要」がなければ、潜在成長率は達成されないのだ。
この結果、旅客機はカタログ通りの能力を発揮できず、より低い上昇力(経済成長率)しか実現できない事態が発生してしまうのである。
バブル経済崩壊後、日本経済は大きなGDPギャップに悩まされてきた。需要が極端に落ち込んだ結果、どんなに生産能力を備えていても、それが生かされなかったのだ。カタログ上のデータでは、ぐんぐん高度を上げているはずの日本経済という旅客機だが、実際の高度は下がり続けてしまったのだ。
GDPギャップには、逆のケースも存在する。潜在成長率以上の経済成長率が達成されてしまうのだ。これは、供給能力以上に需要が発生していることを意味する。実はこれも危険な現象だ。本来の性能以上の上昇を続けているために、機体に無理がかかっている。これが続けば、やがて機体が過熱してインフレが発生、大きな混乱を招くことになりかねない。
GDPギャップを解消し、需要と供給が一致した安定的な飛行に導くのは、コックピットの機長である政府と、副操縦士である日本銀行の役目だ。
「旅客機が性能通りに飛行できないのは、パイロットが下手くそだから」などと言われないためにも、「GDPギャップ」を最小限にとどめる的確な経済政策が求められているのである。