たばこや酒の税率引き上げが検討される際、必ず登場してくる反論だ。税収増を目的に税率を引き上げるわけだが、仮に税率を5%引き上げても、消費が7%落ち込んでしまえば、差し引き2%の売り上げダウン、つまり税収減になってしまうという指摘だ。
ポイントとなるのは、価格(税率)の変化に対して、需要(消費)がどれだけ変化するかの比率で、「弾力性」と呼ばれている。弾力性が1の場合、価格(税率)が5%引き上げられると需要(消費)が5%減少する。しかし、価格が5%引き上げられているので、売上高(税収)は±0となる。
もし、弾力性が1より大きい場合(仮に2とする)、税率が5%引き上げられると消費は10%減り、売上高(税収)は結果的に5%減ってしまう。反対に比率が1より小さい場合(仮に0.5)とすると、5%の価格上昇でも消費の減少は2.5%にとどまり、売上高も2.5%増加、より大きな税収を得ることができる。
価格の変化に対して、需要がどれだけ変化するのか。これが「(需要の)価格弾力性」と呼ばれる尺度であり、売上高(需要)の変化率÷価格の変化率で示される。
価格弾力性は、自動車に置き換えると、アクセル操作に対して、自動車の速度がどれだけ変化するかという「反応度」と考えられる。
価格弾力性が1より大きい場合、アクセルを踏み込むと一気に加速する高い反応度を持つ自動車と考えられる。1よりも小さいと、アクセルを踏んでもなかなか加速しない反応の鈍い自動車ということになる。
価格弾力性は、対象となる商品によって異なってくる。一般的には宝飾類や旅行といった「ぜいたく品」の価格弾力性は1より大きいと考えられている。ブランド品の価格が10%下がれば、「欲しくても高くて買えなかった」という潜在的需要が喚起されて消費が15%アップ、価格の引き下げ分を相殺しても5%の売り上げ増につながるといったことも珍しくない。
反対に価格が10%上昇した場合、「そんなに高いなら買わない」と消費が15%減少、価格の引き上げ分を相殺して、さらに5%の売り上げ減少につながりかねないのだ。この場合の価格弾力性は1.5。価格弾力性が1よりも大きい商品は、アクセル操作に敏感に反応する「高級スポーツカー」なのだ。
一方、アクセル操作に対して反応の鈍い「大衆車」に相当するのが、価格弾力性が1より小さい商品だ。たとえば食パンの価格が10%上昇した場合、ごはんに切り替えるなどして幾分消費が減るかもしれないが、10%以上消費量が落ち込むことは考えにくい。反対にパンの価格が10%下がっても、「今日から1枚多く食べよう!」という人は少なく、消費が10%以上増えることはないだろう。生活必需品の価格弾力性は、1よりも小さくなるのが通常なのである。
価格弾力性が1より大きいかどうかで、価格戦略は大きく異なってくる。価格弾力性が1より大きければ、値下げをしたほうが、結果的に売り上げを増やすことができる。反対に価格弾力性が1以下の場合、値上げによって売り上げを増やすことが可能となる。価格弾力性というアクセルの反応度合いによって、アクセルの操作方法である価格設定が変わってくるのである。
しかし、価格弾力性は商品の種類のみならず、その時々の経済情勢によっても変化している。景気が悪い場合には、生活必需品であっても価格弾力性が大きくなり、好景気になると、ぜいたく品でも価格弾力性が小さくなり、価格の変化に鈍感になることもあるのだ。
たばこの価格弾力性が、1よりも大きければ、税率アップで、税収減になってしまうが、結果はどうなるのか? 価格弾力性は、経済という自動車を効率よく運転する上で、極めて重要な概念なのである。