スポーツ界ではフェアプレーが大前提。これが失われれば、ファンの信頼を失い、存続が危ぶまれる恐れもあることから、コミッショナーを置いて、監視と指導を徹底するというわけだ。
企業活動にも「コミッショナー」に相当する組織がある。「公正取引委員会」だ。
公正取引委員会は、自由で公正な企業活動を実現するために制定された独占禁止法に基づいて、企業活動をチェックしている。そして、これに違反した企業などを見つけた場合には、取引を制限したり、課徴金(制裁金)を科したりするほか、犯罪として摘発することもある。
公正取引委員会が絶えず目を光らせているのが、競争をせずに、企業同士が密約を交わして価格を操作する「カルテル」や「入札談合」だ。公正取引委員会には、企業への立ち入り調査を行う権限があり、徹底的に調べが行われ、違反が確認されれば、そうした行為を止めさせる「排除命令」が出される。その上で、必要に応じて罰金に相当する「課徴金」を科すといった法的措置がとられることになる。
また、調査の結果、法的措置を下すまでの証拠が得られなかった場合でも、「警告」や「注意」などを行うことで、是正を促すこともある。プロ野球で八百長などのアンフェアなプレーが行われた場合に、コミッショナーが厳しく罰を下すのと同じというわけなのだ。
公正取引委員会はこのほか、企業の大規模な買収や経営統合などの「企業結合」についてもチェックする。市場が1社、あるいは数社で独占された場合、競争が行われなくなって消費者が不利益を被る可能性があり、独占禁止法によって制限される場合があるからだ。このため、大きな企業結合については、計画段階で事前審査が行われる。その上で、独占禁止法上の問題がある場合には修正を求めるほか、場合によっては、計画そのものが認められない場合も出てくる。特定のチームが有力選手を独占したり、ライバルチームを買収したりしないように、コミッショナーがチェックするというわけなのである。
公正取引委員会はさらに、景品表示法に基づいて、誇大広告や不適切な商品表示や悪質なセールス、過剰な景品の提供なども監視している。そして問題があれば、「排除命令」や「警告」などを行っている。
2004年から07年までプロ野球のコミッショナーの職にあった根来泰周氏の前職が、公正取引委員会のトップだったのは、単なる偶然ではないだろう。プロ野球のコミッショナーと同様に、経済活動というゲームがフェアに行われ、消費者というファンが楽しめるように目を光らせること。これが「公正取引委員会」に託された職務なのである。
(根来氏は07年1月にコミッショナーを退任、08年5月現在「代行」を務めている)”