子どものころ、親戚からもらったお年玉の袋を、両親はその場で私から取り上げた。袋はその後に返してくれるのだが、中身が減らされていることがほとんどだった。文句を言うと「弟とのバランスもあるし、あまりたくさん渡しても無駄遣いするでしょ。だから、お母さんが調整しているんです」という答えが返ってきた。
親が子どものお年玉を預かり、自らの判断で再分配する。これと同じ仕組みが「地方交付税」だ。親である「政府」が税金を徴収、子どもである「地方自治体」に分配するというわけだ。その目的は地方財源の均衡化。
地方自治体は、住民税や固定資産税、事業税などの「地方税」を徴収し、様々な行政サービスを行っている。しかし、地方税だけでは足りない上に、税収によってバラつきがあり、余裕のある自治体がある一方で、そのままでは満足な行政サービスができない場合もある。この不均衡を是正するために設けられているのが、地方交付税の制度なのである。
地方交付税の財源は、国が集める「国税」から捻出されている。具体的には所得税、酒税、法人税、消費税、たばこ税の五つの税から一定の割合が支出されるように規定されていて、2008年度予算では15兆6136億円となっている。
政府は地方交付税の基本的な考え方について、「国から地方自治体への援助ではない」としている。地方交付税はあくまで地方自治体の固有の財源であり、格差を是正するために、国が代わりに徴収し、一定のルールに基づいて再分配しているというのだ。お年玉は子どものものだが、親が代わりに預かり、兄弟で不公平がないように分配している、という理屈付けがされているのだ。
地方交付税は、交付の内容によって「普通交付税」と「特別交付税」に分けられる。
「普通交付税」は、財源が足りない自治体に交付されるもので、地方交付税全体の94%を占めている。具体的な金額は、地方自治体ごとに人口や面積、さらに寒冷地といった特殊事情などを勘案して、どれだけお金が必要かという基準財政需要額を算出、一方で、標準的な税収である基準財政収入額を差し引いて決められている。
収入額が支出額を上回る自治体には、地方交付税は支出されない。こうした自治体は不交付団体と呼ばれ、東京都や愛知県の豊田市、長野県の軽井沢町などがある。毎月のお小遣いで十分なので、お年玉として預かった分の分配はゼロ、他の兄弟たちに分けてしまうというわけだ。
通常の財源不足を補う「普通交付税」に対して、「特別交付税」は不測の事態に対応するものだ。地震や台風などによって大きな被害が発生し、緊急にお金が必要になった場合に交付される。サッカーをしていて骨折したり、大きな病気にかかって治療費が必要になったりした場合に、お年玉として預かっている中から支出をするというわけだ。
財源の乏しい地方自治体にとっては、歳入の半分以上を地方交付税に頼るところもあるなど、その依存度は高い。しかし、これは一方で、政府が地方自治体を地方交付税によってコントロールしていることに他ならず、その自主性を奪っているという批判も強い。また、そもそも政府が地方の代わりに税金を集めていることが問題だという指摘もある。
政府という親が、地方自治体という子どものお年玉(税金)をいったん預かり、それを再分配するという制度が本当に望ましいのか? 地方税の税源、国からの補助金支出と合わせた三位一体の改革が行われた。しかし、改革は道半ば、まだまだ多くの課題が残されているのが実情なのである。