私が通っていた小学校には、こんな「校則」があった。時間の区切りをしっかりつけさせるためだったらしいが、校庭で遊んでいた児童たちが一斉に直立不動の姿勢をとるのは不思議な光景で、評判の悪い「校則」だった。
学校の校則には、意味不明のものや、理不尽なものも少なくなく、「ここまでやる必要があるの?」と疑問の声もしばしば聞かれる。実は、2002年に成立したアメリカの「SOX法」についても、似たような声が企業から上がっているのだ。
SOX法の正式名称は「上場企業会計改革および投資家保護法」で、あまりに長いことから、法案を提出したSarbanes上院議員とOxley下院議員の名前を取って、The Sarbanes-Oxley Act、略して「SOX法」と呼ばれている。
SOX法は、その正式名称が示しているように、企業の財務報告の厳格化を中心としたモラルの徹底を求める法律だ。
アメリカでは、エンロンやワールドコムといったアメリカを代表する巨大企業で、粉飾決算などの不正が続出、投資家が大きな損失を被り、経済界全体に不信感が強まった。そこで、コーポレート・ガバナンス(企業統治)、とりわけ、コンプライアンス(法令順守)を徹底させることを目的とした、厳しい法律が生まれたのだ。企業という「子供」が大きな問題を引き起こしたことから、政府という「先生」が「校則」を強化して、再発防止に乗り出したというわけなのだ。
全11章69の条文から構成されるSOX法は大変に細かいもので、これによって、企業の財務報告は膨大な作業量を要求されることになった。あまりの作業量の多さに、「仕事も増え、金も時間もかかる悪法」とアメリカの企業からは批判的な声が上がっている。
イトーヨーカ堂やNECが、アメリカの証券市場から撤退したのは、SOX法に基づいた財務報告の負担に耐え切れなかったことも一因、と言われている。
さらに、SOX法の考え方にならって、新しい会計ルールを適用したEUでは、ある企業の財務報告書の重さが約1.5kgとなり、「配達員が腰を痛める」と一人当たりの配達部数を制限、結果として配達が遅れるといった事態も発生したという。あまりに厳しく細かい「校則」に、子供たちが音を上げているのが実情なのだ。
しかし、こうした流れは世界共通で、日本でも「日本版SOX法」がスタートしている。07年9月30日に「証券取引法」などを一本化して全面施行された「金融商品取引法」に、アメリカのSOX法に相当する「内部統制報告書」の提出義務化などが盛り込まれたのだ。対象は国内の証券市場に上場している企業で、今後決算などでの作業量が大幅に増えることが予想されている。
「チャイムの間は直立不動」という校則は、「意味がない!」という批判がPTAなどからも寄せられたため、1年ほどでなくなった。SOX法についても、厳しすぎるとして見直しを求める声が上がり始めている。しかし、現段階ではこれに従わざるを得ず、無視すれば上場廃止など、厳しい処分が待ち受けている。
企業という「子供」たちは、SOX法という厳しい「校則」に困惑しながらも、その対策に追われているのが現状なのである。