ゴーストライターは、自分の名前こそ出ないが、依頼者の「ブランド力」を利用することで、原稿料や印税を稼ぐことができる。一方、本を出せば売れるが書く時間がないという著名人にとって、ゴーストライターを使うことは大きなメリットとなる。
ゴーストライターは、モノ作りの現場にも存在している。これがOEM(Original Equipment Manufacturing)で、日本語では「相手先ブランド製造」となる。ある企業が他社から製品を購入、それを自社の製品として販売するこの手法は、家電やパソコン、自動車に衣料品と、様々な分野で行われている。
その一例が、日産自動車が2002年に発売した軽自動車「モコ」だ。この車を製造しているのはスズキで、01年に自社で発売した「MRワゴン」を、フロント部分などに若干手を加えて日産自動車に供給し、日産自動車のディーラーで販売しているのだ。
スズキは軽自動車の分野では大手だが、普通車はほとんど手がけておらず、販売網も限られている。したがって、日産自動車へOEM供給すれば販売台数のアップが期待できる。
一方、日産自動車は、省エネやエコなどの観点から需要が高まっている軽自動車を、自社のラインアップに加えたいと考えていた。独自開発も可能だが、時間がかかる上に、普通車の開発や生産を圧迫することになる。普通車の市場が「主戦場」である日産自動車にとって、軽自動車はあくまでラインアップを補完するもの。自社生産に比べれば利益は小さいが、会社全体としては効率的な生産体制を組めると判断し、スズキにOEM供給を依頼したのだった。
日産自動車という「人気俳優」が、軽自動車という「エッセー本」の執筆を、スズキという「ゴーストライター」に任せ、自らは普通車という本業の「ドラマ出演」に専念するというわけだ。
OEMは様々な局面で使われている。ビデオレコーダーのように、製品の市場が成熟期から衰退期に入り、売り上げの減少や利益率の低下などが進んだ場合、最低限のラインナップを維持するためにOEM供給に切り替える。反対に、市場が拡大しているにもかかわらず開発が遅れている場合、先行する他社製品をOEMで供給して自社の存在をアピール、開発が追いついた段階で自社製品を投入することもある。スーパーなどの流通業でもOEMは積極的に活用されているが、こちらの場合には「プライベートブランド」(PB)と呼ばれるのが一般的だ。
また、最近ではOEMを発展させた新しいビジネスモデルも登場している。ODM(Original Design Manufacturing 相手先ブランドによる設計・生産)だ。ODMは、企画・開発から生産、マーケティングから販売まで一括して引き受けること。ゴーストライターが、著名人に対して「私が原稿を書くので、告白本を出しましょう。販売も私が担当します。絶対に売れますよ!」と提案しているようなものなのだ。
世界中の企業が積極的に取り入れているOEMだが、デメリットもある。安易にOEMに頼ると、自らの開発・生産力が衰える恐れがあるのだ。また、OEMで調達した製品に欠陥などが発生した場合、自社のブランドを傷付けることになる。「OEMなのでわが社に責任はありません」というわけにはいかないのだ。したがって、自社製品同様に、品質管理を徹底する必要が出てくるのである。
ゴーストライターにエッセー本を書いてもらったタレントが、出版記念会で出来映えを聞かれて「まだ読んでいないので、わかりません」と答え、失笑を買ったことがあったという。様々な分野に広がっているOEMだが、これに頼りすぎることなく、明確な方針と製品の品質管理が必要なのである。