「相互会社」も避難所と似た性格を持っている。相互会社は、保険会社にだけ認められている会社の形態だ。
会社の形態で最も一般的なものは株式会社で、その形態は「分譲マンション」に似ている。株式が分譲マンションの各住戸で、株主がその所有者、株主総会という「住民総会」による議決でマンションの管理・運営方針は決定される。株式会社の目的は「営利追求」、住民の住み心地を可能な限り向上させようとするものだ。
相互会社も、多くの人が資金を出し合って運営されているという点では株式会社と同じだ。株主に相当するのが保険契約者である「社員」、株主総会に相当するのが社員の代表によって構成される「総代会」で、この場で運営方針が決定される。
しかし、相互会社の社員の場合、保険契約は明確にされているが、株式のような会社の資産の裏付けのあるものは提供されていない。大きな体育館に、たくさんの保険契約者が雑魚寝(ざこね)しているのが、相互会社なのである。
また、会社の目的も異なっている。株式会社が「営利目的」であるのに対して、相互会社の目的は「相互扶助」、保険に入りたい人たちがお金を出し合って作り上げる組織で、営利でも公益でもないその中間的な性格を持っている。
緊急時の「避難所」に相当するのが相互会社であり、利益という「居住性」は二の次となるのである。
保険業という業態に則して始まった相互会社だが、問題点も少なくない。株式会社に比べて保険契約者の数が多く、その代表で構成される総代会の監視機能も十分ではなく、保険金の不払いなどの問題点も発生している。
また、株式会社のように、株式の新規発行による資金の調達ができず、持ち株会社を作れないなど、M&A(企業の吸収・合併)戦略の上でも大きな制約が生じてしまう。
一方で、株式会社の形態でも、保険業を営む上で大きな支障はないことから、第二次世界大戦後に誕生した生命保険会社の多くは、株式会社の形態を選択している。
相互会社から株式会社に組織変更するケースも少なくない。大同生命保険(02年)、太陽生命保険(03年)、三井生命保険(04年)が、相互会社から株式会社に組織変更を行った。
生保業界第二位の第一生命保険も、2010年に株式会社へ移行する計画だ。実現した場合には、保険契約者に対して1000万株の普通株式が割り当てられる。仕切りのない避難所から、1000万戸の住戸(株式)を持つ分譲マンションに生まれ変わろうとしているのである。
「避難所」という保険業に特有の形態として登場した相互会社。しかし、株式会社でも保険業は行える上に、デメリットも少なくない。体育館ではなく、分譲マンション型の保険会社への移行が、今後も続くことになりそうだ。