株式会社にも同じことが当てはまる。経営の根幹にかかわる事項については、株主の総意が反映される株主総会で決定される。しかし、日々の細かな経営判断は、その度に株主総会を開くことはできないため、「取締役会」に委ねられている。
取締役会は取締役で構成される意思決定機関。その役割は経営上の様々な意思決定の他、株式の発行や分割、社債の発行、会社の財産の処分、さらには決算書類の承認やコンプライアンスなど多岐に及ぶ。株式会社を分譲マンション、株主を住民と考えれば、取締役会は管理組合の理事会であり、これが十分に機能しないと、会社というマンションはボロボロになってしまう。
企業経営を大きく左右する取締役会だが、社長がすべて決定、他の取締役は従うだけであったり、建設的な議論が戦わされずに形式的であったりと、形骸化している場合も少なくない。こうした状況が続けば、社長が暴走したり、経営判断が甘くなったりと、経営に悪影響を与える恐れが出てくる。また、取締役会が機能を果たせないと、業務の監視がおろそかになり、不正行為を放置することにもなりかねない。
その一方で、取締役会が大きな注目を集めることもある。社長や会長の人事を巡るゴタゴタが起こる時だ。社長や会長を決めるのは、株主総会ではない。株主総会では取締役が選ばれるだけ。社長や会長は取締役の中から、取締役会での過半数の賛同で選出される。
このため、取締役会が社内の抗争の舞台となり、社長を突然解任する「クーデター」が起こることもある。社長の解任も、取締役の過半数の賛成があれば可能であるためだ。
広く知られているのが、1982年に百貨店の「三越」で起こった岡田茂社長の解任劇だ。独裁的な経営に反発した取締役たちが突如として解任動議を提出し、岡田社長をクビにしてしまう。その時に岡田氏が発したとされる「なぜだ!」の一言は、その年の流行語となるほど世間の注目を集めた。
取締役会の役割を再認識させたのが、光学機器大手オリンパスの問題だろう。取締役会で選出されたイギリス人の新社長が、不透明な資金の流れを追及しようとしたところ解任され、会長が社長を兼務する。その後、会長兼社長が混乱の責任をとって辞任、専務が昇格…という異常事態となった。これらは全て取締役会で起こったことで、株主は手を出すことができない。絶対的な権力を持つ社長の下、取締役会が機能不全に陥っていたことが問題を深刻化させ、企業の根幹を揺るがせる事態を招いたのであった。
取締役会は、社長のクビも飛ばせる強い権限を持っている。その力をどれだけ発揮できるかが、企業の命運を左右するのである。