マイクとエドと同様のことを「会社」で行っているのが「ターンアラウンドマネージャー」だ。破綻寸前の会社に乗り込み、再建を進めるスペシャリストで、「再建請負人」と呼ばれることもある。
どんな名車でも、乱暴に扱えば故障するし、経年劣化も避けられない。会社も同様で、名門企業でも少しの油断で競争力を失ったり、大きなトラブルを引き起こしたりして、存亡の危機に直面することがある。そこでターンアラウンドマネージャーの登場となるのだ。
ターンアラウンドマネージャーの仕事は、会社の問題点を徹底的に洗い出すことから始まる。基本的な経営状況に加えて、人事やコンプライアンスに至るまで徹底的に調査し、会社という車のどこが壊れているのかを探っていく。
問題点を整理したターンアラウンドマネージャーは、故障箇所を修理したり、部品を交換したりというリストラに着手すると同時に、新しい経営戦略も打ち出して、再建を進める。「名車再生!」で修理担当のエドが、自動車についての豊富な知識と確かな修理技術を持っているように、ターンアラウンドマネージャーにも、経営に関する広範囲な知識と経験、そして強い実行力が求められる。
「名車再生!」では、仕入れと販売担当のマイクの存在も重要となっている。高い情報力と巧みな交渉術で、車を安く買い付けて高く販売するマイクだが、ターンアラウンドマネージャーも同様の資質が必要となる。企業再建を円滑に進めるためには、取引先や取引銀行、債権者や株主などの複雑な利害関係を調整しなくてはならない。経営のノウハウだけでは不十分で、卓越した交渉力なくして、会社の再建は不可能なのだ。
優れたターンアラウンドマネージャーとして最初に名前が浮かぶのがカルロス・ゴーン氏だ。2兆円もの負債を抱えて経営破綻の淵にあった日産自動車に、ルノーの上席副社長のままターンアラウンドマネージャーとして乗り込んだゴーン氏。抜本的なリストラを進めると同時に、複雑な利害関係も調整、短期間で「往年の走り」を復活させた。
日本航空の再建を果たした京セラ最高顧問の稲盛和夫氏や、ハウステンボスを再び輝かせたエイチ・アイ・エスの創業者澤田秀雄氏らも、ターンアラウンドマネージャーとして高い評価を得ているが、優れた人材はごく少数だ。近年ではターンアラウンドマネージャーを養成する試みも始まっているが、経営者としての豊富な経験が求められることから、短期間での育成は容易ではない。
「名車再生!」は、蘇った名車の疾走シーンで終わる。ゴーン氏は現在、燃費の不正問題という「事故」を起こした三菱自動車に乗り込んでいる。名門の走りを復活させられるのか? ターンアラウンドマネージャーとしてのゴーン氏に、再び注目が集まっている。