ある銀行の国際部門で働く知人が誇らしげに見せてくれたのは、アクリルでできた長方形の置物。世界的に知られたアメリカの企業名と「US$100,000,000」の文字、これに続いて、彼が所属している銀行を筆頭に、世界各国の金融機関の名前がずらりと並んでいる。
この置物は、その形が西洋式のお墓に似ていることから、ツームストーン(tombstone 墓石)と呼ばれているもの。彼の銀行が主幹事を務めたシンジケートローンの記念として作られたものだった。
「シンジケートローン」(協調融資)とは、複数の金融機関が同じ融資条件・単一の契約書で融資を行うものだ。組織暴力団という意味も持つ「シンジケート」だが、「代表者の集まり」というギリシャ語が語源。取りまとめ役である主幹事(アレンジャー)の下、数社、場合によっては10社以上の金融機関が参加して融資が実行される。
シンジケートローンが組まれる最大の理由は、単一の金融機関ではできない巨額の融資が実行できる点にある。シンジケートローンは元々、企業ではなく、外国の政府や政府機関に対する融資(ソブリンローン)で発達してきたもの。融資額が大きいことから、単一の金融機関ではリスクを負いきれない場合があり、シンジケート団を結成して融資金を出し合うことで、資金需要に対応してきたのだ。
シンジケートローンは、融資を受ける側にとってもメリットが多い。金融機関と個別に融資契約を結ぶと、金利や返済期間がバラバラになる場合が多く、返済手続きも煩雑になる。シンジケートローンであれば、返済条件は単一、返済もエージェントとなる金融機関(主幹事が兼ねる場合が多い)にまとめて行えばよいなど、手間が省ける。さらに、複数の金融機関から融資を受けていることで、信用力のアップにもつながるのである。
こうしたことから、近年では一般企業向けのシンジケートローンも急増している。設備投資などでは巨額の資金が必要となることから、大企業のみならず、中堅企業でも利用が進んでいるのだ。1990年代後半に数千億円規模だった国内市場は、2007年度には約26兆2000億円(日本銀行調べ)と、企業の資金調達にはなくてはならない存在となった。
シンジケートローンの要となるのが主幹事だ。シンジケートローンに参加する金融機関を集め、複雑な利害関係を調整しながら融資条件をまとめていく。同じ金融機関、プロ同士がしのぎを削る金融ビジネスの世界で、その上に立ってシンジケートローンをまとめるためには、卓越したノウハウとリーダーシップが求められる。
したがって、シンジケートローンの主幹事になるということは、その金融機関のステータスシンボルとなる。これが、欧米の金融機関の上に立ち、外国政府や世界規模の大企業のシンジケートローンの主幹事となれば、世界トップクラスの実力を持っていることの証明となるのだ。
主幹事となった金融機関名は、ツームストーンの最上段左側に刻まれるのが通例だ。この場所を業界では「トップレフト」と呼ぶ。並み居る欧米の金融機関を抑えて、その場所を勝ち取った知人、誇らしげな表情も無理はない。
巨額の融資が国境を越えて行われる「シンジケートローン」は、金融の最前線で展開されているビッグビジネスなのである。