マネタイゼーションは、その名が示すとおり「何か」を「マネー(貨幣)」に変えることであり、一般的には「貨幣の発行」を意味している。マネタイゼーションの担い手は、貨幣を発行し流通させている中央銀行。いわば「紙切れ」を「お札」に変える「魔法使い」であり、人々はその魔法にかかっているのだ。
中央銀行が最も恐れるのが貨幣の信用力の低下、つまりインフレだ。貨幣を増発する「金融緩和」を行うと、景気が良くなる可能性がある一方で、貨幣の価値が下がるインフレ発生のリスクも高まり、貨幣価値が暴落するハイパーインフレに発展することもある。第一次世界大戦後のドイツで発生したハイパーインフレでは、「はな紙を買うより、お札ではなをかんだほうがまし」と言われたほど貨幣が価値を失った。貨幣の過剰な発行、つまりマネタイゼーションの魔法を使いすぎたことで、その力が失われ、貨幣が紙切れに戻ってしまったというわけだ。
こうした事態を避けるために、中央銀行は貨幣量を慎重に管理している。魔法が解けることをいつも恐れている「臆病な魔法使い」が中央銀行なのだが、これに対して「もっと魔法を使え!」と迫るのが政府だ。
政府は景気対策として、「もっとお札を刷れ!」と強力な金融緩和を中央銀行に求めることが多い。また、財源の不足を穴埋めするために特別なマネタイゼーションを求めることもある。「国債の直接引き受け」だ。政府が借用証書である国債を大量発行、これを中央銀行に直接買い取らせて財源に充てようとする方法である。
政府は普段から国債を発行して資金を得ているが、これはすでに流通している貨幣と国債を交換しているだけで、貨幣の総量に変化はない。しかし、国債を中央銀行に直接買い取らせると、その分だけ貨幣量が増加する。国債の直接引き受けは、国債を貨幣に変えるマネタイゼーションであり、政府が中央銀行に代わって魔法を使うことに他ならないことから、中央銀行は強く抵抗する。
これ以外にも、政府が独自のマネタイゼーションを模索することもある。政府債務残高が法定上限額に達し、資金繰りが危機的状況にあるアメリカでは、2013年の初め、政府が超高額の「記念硬貨」を発行するという“奇策”が浮上した。1兆ドル(約88兆円)硬貨を1枚だけ発行、政府の口座に入れて使ってしまおうというのだ。この方法は結局断念されたが、中央銀行とは別に「政府紙幣」の発行が検討されることもある。しかし、マネタイゼーションを操る魔法使いが二人になれば混乱は必至だろう。
日本でも安倍晋三政権が日本銀行に大胆な金融緩和を求め続けているが、魔法の乱用は危険な行為だ。マネタイゼーションの魔法が解け、お札が紙切れに戻ったら、経済は崩壊してしまう。政府がキツネやタヌキのマネをすることは、許されないのである。