歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
松王(まつおう)
梅王・桜丸とは三つ子の兄弟。一家は菅原道真の恩を受けるが、松王ひとりが対立する藤原時平(ふじわらのしへい)に仕えている。そのため、時平の陰謀で道真が失脚すると、菅原家に忠誠を誓う親兄弟と離反してしまう。道真の子の首実検を平然と行う冷血漢と見えて、実はわが子の首を身代わりにしたことを明かし、胸に秘めた道真への忠義と苦衷(くちゅう)を初めて吐露する。『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』(1746年初演)。
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桜姫(さくらひめ)
屋敷へ忍び込み暴行した釣鐘権助(つりがねごんすけ)に逆にベタ惚れ、妊娠して御家騒動真っただ中にもかかわらず出奔、とすべてが破天荒な姫君。女郎屋へ売り飛ばされても、風鈴お姫の名でたくましく生きる見上げた柔軟性の持ち主。心中した稚児、白菊丸の生まれ変わりでもある。品の良さと俗っぽさのちぐはぐが妙に魅力的な、坂東玉三郎の当たり役。『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』(1817年初演)。
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雲の絶間姫(くものたえまのひめ)
朝廷を恨む鳴神上人(なるかみしょうにん)によって干ばつに苦しめられるなか、朝廷からの切り札としてつかわされたのが美女の誉れ高きこの姫。戦略は色仕掛け作戦。のぞき心くすぐるエロ仕方話や、体を張った手練(てれん)にはさすがの高僧も興奮して我を忘れる。そこで、この隙逃がすまじ!と封印を解いて雨を降らせ、見事大命を果たす。『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』(1742年初演)。
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武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)
京都五条橋で牛若丸(源義経の幼名)に屈して以来、義経第一の忠臣として最期まで付き添う。知勇どちらも優れた働き者。大物浦(だいもつのうら)で平知盛(とももり)の亡霊を鎮めたり(『船弁慶』)、安宅の関ではとっさの機転で、関守の富樫(とがし)の心を動かし難を免れたり(『勧進帳』)。弁慶の泣き所という言葉もこの豪傑のイメージに負っている。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】